坂尾陽弁護士
2009年 京都大学法学部卒業
2011年 京都大学法科大学院修了
2011年 司法試験合格
2012年~2016年 森・濱田松本法律事務所所属
2016年~ アイシア法律事務所開業

Contents
- 1 小売店・物販店舗の立退料は在庫・商圏・什器で変わる
- 2 立退料は「家賃何か月分」だけで決まりません
- 3 小売店で立退料が高額化しやすい要素
- 4 小売店で請求・交渉し得る主な費目
- 5 在庫・商品・什器は「移動できるか」「価値が下がるか」を分けて整理する
- 6 休業補償・営業補償は売上だけで計算しない
- 7 店舗内装・冷蔵設備・バックヤードで注意すべき点
- 8 商圏・固定客・立地依存をどう説明するか
- 9 業態別に見る小売店・物販店舗の注意点
- 10 裁判例から見る小売店・物販店舗の立退料
- 11 立退料交渉前に準備すべき資料
- 12 提示された立退料が低いと感じる場合の進め方
- 13 合意書で確認すべき条項
- 14 弁護士に相談すべきタイミング
- 15 よくある質問
- 16 まとめ
小売店・物販店舗の立退料は在庫・商圏・什器で変わる
小売店、物販店舗、スーパー、専門店、アパレル、リサイクルショップ、自然食品店、古美術店、鍵屋、釣具店、洋菓子製造販売店などが、建替え、老朽化、再開発、更新拒絶、解約申入れなどを理由に退去を求められた場合、立退料は単なる引越代だけでは足りないことがあります。
小売店では、商品在庫、陳列棚、ショーケース、冷蔵・冷凍設備、レジ・POS、看板、内装、バックヤード、倉庫、搬入口、駐車場、商圏、固定客、移転告知、休業期間が営業に直結します。移転先が見つかったとしても、同じ売場面積、同じ客層、同じ搬入動線、同じ在庫保管条件を確保できるとは限りません。
裁判例データの傾向でも、小売・サービス店舗は立退料が高額化し得る業種です。小売・サービス店舗の立退料は、平均値で家賃約89.9か月分と整理されています。もっとも、これは個別の裁判例を集計した傾向であり、すべての小売店・物販店舗で同じ倍率が認められるという意味ではありません。
家賃約89.9か月分という平均値は、店舗規模、在庫、商圏、固定客、設備、代替店舗の有無、貸主側の建替え事情などが反映された結果です。交渉では「平均だからこの金額」と主張するのではなく、自店舗で実際に発生する移転費、休業補償、営業補償、在庫処分損を資料で示すことが重要です。
本記事では、小売店・物販店舗の立退料で問題になりやすい費目、在庫・商圏の資料化、裁判例、合意書の注意点を整理します。
立退料は「家賃何か月分」だけで決まりません
建物賃貸借では、貸主が更新拒絶や解約申入れによって借主に退去を求める場合、借地借家法上の正当事由が問題になります。立退料は、貸主側の建替え・老朽化・再開発などの事情と、借主側の営業継続の必要性を調整するために提示される金銭給付です。
そのため、立退料の金額は、家賃の何か月分という一つの計算だけで機械的に決まるものではありません。裁判所は、建物の老朽化、建替え計画の具体性、貸主・借主それぞれの使用の必要性、賃貸借の経過、店舗の利用状況、移転により失われる利益、提示された立退料の内容などを総合的に見ます。
小売店では、飲食店のような厨房設備とは別に、在庫、棚、冷蔵ケース、レジ、バックヤード、商圏、固定客が中心論点になります。一方で、商品在庫の全額や将来の売上減少を当然に全額請求できるわけではありません。費目ごとに根拠を分けて説明することが必要です。
小売店で立退料が高額化しやすい要素
小売店・物販店舗の立退料は、店舗の広さだけでなく、店舗と営業との結びつきによって大きく変わります。次のような事情がある場合、立退料の交渉で丁寧に説明する必要があります。
| 要素 | 小売店で問題になる理由 | 準備したい資料 |
|---|---|---|
| 在庫量・商品特性 | 商品を移動できるか、処分が必要か、期限切れや破損リスクがあるかで損失が変わる | 在庫一覧、棚卸表、仕入帳、商品写真 |
| 売場・什器 | 棚、ショーケース、冷蔵・冷凍ケース、レジ、POS、防犯設備が営業に必要になる | 什器リスト、設備写真、移設・新設見積 |
| 商圏・固定客 | 駅前、商店街、住宅地、病院・学校周辺などの立地が来店数に影響する | 客数、売上推移、会員情報、商圏資料 |
| 代替店舗の条件 | 同じ面積、路面性、駐車場、搬入口、バックヤードを確保できるとは限らない | 移転候補物件、却下理由、不動産会社とのやり取り |
| 休業期間 | 在庫移動、内装工事、棚設置、レジ設定、告知のため営業できない期間が生じる | 工程表、売上資料、固定費、人件費 |
| 店舗認知・看板 | 地域での認知、看板視認性、口コミ、Googleビジネスプロフィールが集客に影響する | 広告資料、口コミ、SNS、看板写真 |
貸主から「物販なら商品を運べばよい」「移転費だけで足りる」と言われた場合でも、上記の事情があるなら、資料をそろえて個別に説明する余地があります。
小売店で請求・交渉し得る主な費目
立退料は一括の金額で提示されることもありますが、交渉では費目ごとに整理した方が、どこが不足しているのかを説明しやすくなります。
| 費目 | 内容 | 確認すべきポイント |
|---|---|---|
| 移転費 | 商品、什器、棚、ショーケース、レジ、POS、看板、書類などの搬出・運搬・再設置費 | 移転業者の見積、搬出入経路、保管費 |
| 在庫移動・在庫処分 | 在庫の運搬、保管、廃棄、閉店セールによる値引き損、期限切れ商品の処分 | 棚卸表、商品別粗利、廃棄見込み、処分費 |
| 内装・造作費 | 売場、棚、試着室、包装台、カウンター、照明、看板、空調、床・壁・天井の工事 | 現店舗の造作価値、移転先での再現可能性 |
| 設備費 | 冷蔵ケース、冷凍ケース、POS、監視カメラ、防犯ゲート、バックヤード設備など | 移設できるか、新設が必要か、リース契約の有無 |
| 休業補償 | 移転準備、在庫移動、内装工事、再オープン準備のため営業できない期間の損失 | 休業期間の必要性、粗利、固定費、人件費 |
| 営業補償 | 移転後の売上低下、固定客喪失、商圏喪失、再集客費用、広告費など | 売上推移、客数、会員情報、商圏の変化 |
| 賃料差額・移転先取得費 | 移転先の賃料上昇、敷金、保証金、仲介手数料、内装工事期間中の賃料 | 移転候補物件の条件、契約初期費用 |
| 原状回復との調整 | 既存店舗の撤去、残置物、造作、保証金返還、貸主による造作利用の有無 | 契約書、原状回復条項、保証金資料 |
| 告知・再集客費用 | 移転案内、チラシ、Web修正、SNS告知、看板変更、顧客への案内 | 広告費、印刷費、Web修正見積、告知計画 |
店舗・テナント共通の費目や資料作成の考え方は、テナントの立退料で請求できる費目と交渉の進め方でも整理しています。本記事では、小売店・物販店舗特有の事情を中心に見ていきます。
在庫・商品・什器は「移動できるか」「価値が下がるか」を分けて整理する
小売店の立退料で特徴的なのが、在庫と什器の扱いです。在庫は営業のための資産ですが、すべての商品について当然に全額補償されるわけではありません。移動できる在庫、保管が必要な在庫、移動で価値が下がる在庫、期限切れや閉店セールで損失が出る在庫を分けて考えます。
商品在庫は全額補償ではなく損失の内容を説明する
例えば、通常どおり移転先に運べる商品であれば、主に運搬費や保管費が問題になります。他方で、食品、冷凍品、季節商品、壊れやすい商品、高額商品、展示品などは、移転により品質低下、破損、期限切れ、販売機会の喪失が問題になり得ます。
在庫の損失を主張する場合は、商品名、数量、仕入価格、販売価格、粗利、賞味期限・消費期限、閉店セールでの値引き見込み、廃棄費用を整理します。単に「在庫が多い」と述べるだけではなく、どの在庫にどの損失が出るのかを説明することが大切です。
陳列棚・ショーケース・レジ・POSは移設可否を確認する
陳列棚、ショーケース、冷蔵・冷凍ケース、レジ、POS、防犯ゲート、監視カメラ、看板などは、移転先でそのまま使えるとは限りません。寸法、電源、床荷重、配線、冷媒、リース契約、保守契約、移転先のレイアウトによって、移設か新設かが変わります。
設備費を交渉する場合は、現店舗の写真、設備リスト、メーカー・施工業者の見積、リース契約書、移設不能の理由、移転先図面を準備しましょう。全額新品購入費が当然に認められるとは限りませんが、移設できない合理的な理由を示せれば、交渉材料になります。
休業補償・営業補償は売上だけで計算しない
小売店の立退料でよく問題になるのが、休業補償と営業補償です。ここで注意したいのは、売上そのものがそのまま補償額になるわけではないことです。売上から仕入原価などを差し引いた粗利、固定費、人件費、休業期間、再開準備期間、移転後の売上回復までの期間を分けて考える必要があります。
「前年同月の売上全額」をそのまま休業補償として請求しても、根拠としては不十分です。売上、粗利、固定費、変動費、在庫処分損、休業期間の必要性を分けて説明しましょう。
休業補償では、移転準備、棚卸、搬出、内装工事、商品陳列、POS設定、スタッフ研修、オープン告知に必要な期間を示します。営業補償では、移転後に固定客が離れる可能性、商圏が変わることによる売上低下、再集客のための広告費を整理します。
準備資料としては、決算書、確定申告書、試算表、月次売上、日別売上、POSデータ、商品別売上、粗利率、仕入資料、家賃・人件費・水道光熱費などの固定費資料が重要です。
店舗内装・冷蔵設備・バックヤードで注意すべき点
小売店では、売場だけでなく、バックヤード、倉庫、搬入口、包装スペース、作業台、冷蔵・冷凍設備、試着室、照明、看板、防犯設備が営業に影響します。見た目の内装だけでなく、在庫管理や搬入出の動線も重要です。
スーパーや食品販売店では、冷蔵ケース、冷凍ケース、作業場、バックヤード、搬入口、駐車場、配送動線が問題になりやすくなります。アパレルでは、試着室、陳列棚、季節商品の保管、閉店セールによる値引き損が問題になります。リサイクルショップや古美術店では、商品評価、保管環境、展示スペース、破損リスクが問題になります。
造作買取請求、原状回復、残置物、保証金返還との関係は、店舗共通の論点でもあります。小売店では、現店舗の設備が貸主に残るのか、借主が撤去するのか、移転先で再利用できるのかを、合意書で明確にしておく必要があります。
商圏・固定客・立地依存をどう説明するか
小売店は、商品力だけでなく、場所との結びつきによって売上が変わります。駅前、商店街、住宅地、病院内、学校周辺、オフィス街、ロードサイドなど、立地ごとに来店客の属性や購買頻度が異なります。
商圏や固定客の喪失を主張する場合は、抽象的に「お客様が減る」と書くだけでは足りません。会員情報、ポイントカード、顧客台帳、客数、客単価、エリア別売上、Googleビジネスプロフィール、口コミ、SNS、折込チラシ、商店街資料などを使い、現在の店舗がどのように集客しているかを説明します。
移転候補物件を調査した記録も重要です。同じ商圏内に同程度の面積の路面店がない、冷蔵設備を置けない、搬入口がない、駐車場が足りない、賃料が大幅に上がるといった事情は、代替店舗確保の困難性として説明しやすくなります。
業態別に見る小売店・物販店舗の注意点
スーパー・大型小売店
スーパーや大型小売店では、売場面積、食品在庫、冷蔵・冷凍設備、バックヤード、搬入口、駐車場、従業員、配送体制、地域住民の生活導線が問題になります。移転先が同じ地域に見つからない場合、単なる移転費だけでなく、営業基盤全体への影響を説明する必要があります。
アパレル・リサイクルショップ
アパレルでは、季節商品、在庫、試着室、陳列什器、ブランド認知、閉店セールによる値引き損が問題になります。リサイクルショップでは、商品の一点性、保管場所、販売タイミング、商品劣化、什器、固定客を整理する必要があります。
自然食品店・食品販売店・洋菓子店
自然食品店や食品販売店では、賞味期限・消費期限、冷蔵・冷凍設備、食品在庫、固定客、健康志向の顧客層、ブランド認知が問題になります。洋菓子製造販売店のように製造設備がある場合は、飲食店や工場の記事で扱う厨房・製造設備の論点とも重なります。
古美術店・専門店・鍵屋
古美術店では、高額商品、保管環境、展示スペース、専門顧客、店舗の信用が問題になります。鍵屋や専門店では、地域密着性、緊急対応、固定客、店舗認知、工具・部材の在庫が問題になりやすくなります。
飲食店舗や厨房設備が中心になる場合は、飲食店の立退料も確認してください。倉庫・工場・整備工場・作業場の設備移設が中心になる場合は、工場・倉庫・車両関連店舗の立退料の考え方が参考になります。
裁判例から見る小売店・物販店舗の立退料
小売店・物販店舗の立退料は、裁判例でも事案によって大きく異なります。ここで重要なのは、裁判例の金額をそのまま自店舗に当てはめることではなく、どのような事情が考慮されたのかを理解することです。
スーパーマーケットで5億4663万円の立退料が認められた裁判例
東京地裁令和5年9月25日判決では、スーパーマーケットを運営する賃借人について、築年数の経過した建物を建て替えて新たな商業施設を経営する貸主側の必要性と、店舗運営を継続してきた借主側の事情が問題になりました。裁判所は、相当な立退料の提供による補完を前提に正当事由を認め、5億4663万円の支払と引換えの明渡しを認めました。
スーパーのような大型小売店では、店舗面積、売場構成、在庫、従業員、地域での営業基盤が大きいため、立退料が高額になることがあります。ただし、大型スーパーの金額を小規模店舗にそのまま当てはめることはできません。
総合スーパーで6億1600万円の立退料が認められた裁判例
東京地裁令和5年3月23日判決では、長年営業してきた総合スーパーについて、建物の老朽化や建替えの必要性、借主が営業を継続してきた利益、店舗や駐車場の利用状況などが問題になりました。裁判所は、6億1600万円の立退料の支払と引換えに明渡しを認めました。
大型小売店では、売場だけでなく、駐車場、ピロティ、搬入出、地域の生活導線、テナントや従業員への影響など、通常の小規模店舗よりも多くの事情が立退料に関係し得ます。
リサイクルブティックで5000万円の立退料が認められた裁判例
東京地裁平成21年10月8日判決では、ブランド衣料・装飾品のリサイクルブティックを営業していた店舗について、建物の老朽化を理由とする明渡しが問題になりました。裁判所は、年間売上などの事情を考慮し、5000万円の立退料を相当としました。
リサイクルショップやアパレルでは、商品在庫、固定客、商品評価、保管・販売機会、店舗認知が金額に影響し得ることを示す例です。
古美術・骨董店で1270万円の立退料が認められた裁判例
東京地裁平成30年5月23日判決では、古美術・骨董店について、貸主・借主双方に事業上の使用必要性があり、その必要性の程度は甲乙を付けがたいとされました。裁判所は、他の事情を踏まえ、1270万円の立退料を相当と判断しました。
古美術店や高額商品を扱う専門店では、単なる売場移転だけでなく、商品の保管、展示環境、店舗の信用、顧客層が問題になり得ます。
立退料交渉前に準備すべき資料
小売店・物販店舗の立退料交渉では、感覚的な主張ではなく、資料に基づいて説明することが重要です。次の資料を可能な範囲で集めておきましょう。
契約・建物関係の資料
- 賃貸借契約書、更新契約書、重要事項説明書
- 貸主からの解約申入れ・更新拒絶・建替え説明資料
- 保証金、敷金、更新料、原状回復条項に関する資料
- 店舗図面、現店舗の写真、内装・設備の図面
- 過去の修繕、漏水、設備不具合、耐震説明に関する資料
営業・在庫関係の資料
- 確定申告書、決算書、試算表、月次売上資料
- 日別売上、POSデータ、商品別売上、粗利率
- 在庫一覧、棚卸表、仕入帳、商品写真、廃棄見込み
- 会員情報、ポイントカード、顧客台帳、口コミ、SNS
- 閉店セール、移転告知、広告費に関する資料
移転費・設備費・休業補償に関する資料
- 什器、棚、ショーケース、冷蔵・冷凍設備、レジ、POSのリスト
- 移転業者、内装業者、設備業者の見積
- 保管費、廃棄費、搬出入費、仮店舗費用の見積
- 移転候補物件の賃料、敷金、保証金、仲介手数料
- 工事工程表、休業期間見込み、移転後の再開計画
資料をそろえる段階では、税理士、内装業者、設備業者、不動産業者に協力を求めることもあります。特に在庫・什器・設備は、現地調査をしないと移設可否が分からないことが多いため、早めに確認しましょう。
提示された立退料が低いと感じる場合の進め方
貸主から立退料の提示を受けた場合は、金額だけでなく、支払時期、明渡し期限、原状回復、保証金返還、休業期間、移転先工事の遅れ、合意後の追加費用を確認します。
| 確認項目 | 交渉で見るべきポイント |
|---|---|
| 提示額の内訳 | 移転費、在庫処分、休業補償、営業補償、原状回復免除、保証金返還がどこまで含まれるか |
| 明渡し期限 | 在庫移動、閉店セール、内装工事、再オープン告知に必要な期間が確保されているか |
| 支払時期 | 移転先契約や内装工事の前に必要な資金を受け取れるか、明渡し後払いだけになっていないか |
| 原状回復 | 撤去義務、残置物、造作、冷蔵設備、棚、看板、保証金返還の扱いが明確か |
| 追加費用 | 合意後に在庫処分費や工事費が増えた場合の扱いをどうするか |
提示額が低いと感じる場合は、まず費目ごとに不足額を整理します。感情的に拒否するよりも、見積書、売上資料、在庫資料、移転候補物件を示して、なぜその金額では移転できないのかを説明する方が交渉しやすくなります。
合意書で確認すべき条項
立退料の合意書に署名すると、後から追加請求が難しくなることがあります。小売店では、在庫移動や内装工事の途中で追加費用が発生することもあるため、署名前に内容を確認しましょう。
- 立退料の金額、支払時期、支払方法
- 明渡し期限と、延長が必要になった場合の扱い
- 原状回復義務、残置物、造作、冷蔵設備、棚の扱い
- 保証金・敷金の返還と、未払賃料等との精算
- 在庫処分費、廃棄費、移転告知費用を誰が負担するか
- 合意後に追加費用が出た場合の扱い
「本合意により一切の債権債務がない」といった清算条項が入る場合は特に注意が必要です。まだ在庫処分費や原状回復費が確定していない段階で広い清算条項に合意すると、後から不足分を請求しにくくなることがあります。
弁護士に相談すべきタイミング
小売店・物販店舗の立退料交渉では、早い段階で資料を整理するほど、交渉の選択肢を残しやすくなります。特に次のような場合は、合意書に署名する前に弁護士へ相談することをおすすめします。
- 貸主から退去期限を一方的に指定された
- 立退料が移転費だけで、休業補償や在庫処分が含まれていない
- 在庫量が多く、閉店セールや廃棄が必要になる
- 冷蔵・冷凍設備、ショーケース、POSなどの移設費が大きい
- 同じ商圏内に代替物件が見つからない
- スーパー、食品販売店、古美術店など店舗規模や商品特性が特殊である
- 原状回復費や保証金返還で争いがある
- 合意書案への署名を求められている
弁護士に相談する際は、賃貸借契約書、貸主からの通知、提示額、見積書、売上資料、在庫一覧、棚卸表、設備リスト、移転候補物件の資料を可能な範囲で持参すると、見通しを立てやすくなります。
よくある質問
小売店の立退料は家賃何か月分が相場ですか
小売・サービス店舗の裁判例データでは、平均値として家賃約89.9か月分という傾向があります。ただし、これは個別裁判例を集計した結果であり、すべての小売店でこの倍率が認められるわけではありません。在庫、商圏、売上、設備、代替物件、貸主側の事情を具体的に見る必要があります。
小売店の休業補償は請求できますか
休業が移転に必要であり、その期間や損失額を資料で説明できる場合は、休業補償が交渉対象になることがあります。売上全額ではなく、粗利、固定費、人件費、休業期間の必要性、再開準備期間を整理して主張することが重要です。
在庫の全額を補償してもらえますか
在庫の全額が当然に補償されるとは限りません。移転できる商品、移転により価値が下がる商品、期限切れや閉店セールで損失が出る商品、廃棄が必要な商品を分けて、在庫一覧や棚卸表で説明しましょう。
陳列棚や冷蔵ケース、POSの買い替え費用は請求できますか
既存設備を移設できるか、移設により故障リスクがあるか、移転先で同じ設備を設置できるかによって判断が変わります。全額新品購入費が当然に認められるとは限りませんが、移設不能の理由、耐用年数、メーカー見積を示すことで交渉材料になります。
スーパーの立退料は高額になりやすいですか
スーパーは、店舗面積、食品在庫、冷蔵・冷凍設備、バックヤード、駐車場、従業員、地域の生活導線などが大きいため、高額な立退料が問題になることがあります。ただし、スーパーの裁判例の金額を小規模店舗にそのまま当てはめることはできません。
商圏や固定客を失うことも補償対象になりますか
商圏や固定客の喪失は、営業補償の中で問題になることがあります。ただし、抽象的に「客が減る」と言うだけでは足りません。客数、売上推移、会員情報、商圏資料、移転候補地との距離などを整理して説明する必要があります。
関連記事
小売店・物販店舗の立退料だけでなく、事業用テナント全体の費目や店舗・テナントの相場感を確認したい場合は、次の記事も参考になります。
まとめ
小売店・物販店舗の立退料は、在庫、什器、冷蔵・冷凍設備、レジ・POS、店舗内装、商圏、固定客、休業期間、代替店舗の有無によって大きく変わります。裁判例データの傾向では、小売・サービス店舗は平均で家賃約89.9か月分と整理されていますが、個別案件では資料化と交渉方針が重要です。
貸主から立退きを求められた場合は、提示額に即答せず、移転費、在庫移動、在庫処分、設備費、内装工事、休業補償、営業補償、原状回復、保証金返還を分けて確認しましょう。合意書に署名する前に、営業を再開するまでに必要な費用と損失を整理しておくことが、適正な立退料交渉につながります。
