貸主や管理会社から立ち退きを求められると、「いつまでに返事をすべきか」「立ち退き料はいくら請求できるか」「先に引っ越し先を探すべきか」と迷う方が少なくありません。
立退料請求では、退去を承諾する前に、契約の種類、貸主が示す理由、希望する明渡時期、移転による損失を整理することが重要です。金額だけを先に決めるのではなく、支払時期、敷金、原状回復、退去までの賃料なども一体として交渉します。
この記事では、主に建物を借りている借主の立場から、立ち退き通知を受けた直後の初動、資料収集、請求書・内容証明、交渉、合意書、支払と明渡し、調停・訴訟までの流れを解説します。
- 通知を受けても、その場で退去や金額に同意しない
- 普通借家・定期借家・契約違反による解除を区別する
- 住宅と店舗では、整理すべき損失や資料が異なる
- 立退料だけでなく、明渡日・支払時期・敷金・原状回復も交渉する
- 合意内容を書面にしてから、支払と明渡しを実行する
坂尾陽弁護士
2009年 京都大学法学部卒業
2011年 京都大学法科大学院修了
2011年 司法試験合格
2012年~2016年 森・濱田松本法律事務所所属
2016年~ アイシア法律事務所開業

Contents
立退料請求の流れ|通知から支払・明渡しまで
立退料請求は、通知を受けてすぐ金額を伝えれば終わる手続ではありません。まず契約と立ち退き理由を確認し、希望条件と根拠資料を整理したうえで、交渉と合意書作成を進めます。
| 段階 | 借主がすること | 詳しい確認先 |
|---|---|---|
| 通知を受ける | 通知書、契約書、更新書類を保管し、貸主の理由と希望退去日を確認する | 正当事由の判断要素 |
| 初動対応 | 即答や署名を避け、条件を確認して回答すると伝える。賃料等は原則として従来どおり履行する | 本記事の初動チェック |
| 希望・資料整理 | 明渡時期、必要費用、移転先、住宅・事業への影響を整理する | 立ち退き料の相場と計算方法 |
| 請求文書を送る | 請求趣旨、費目、根拠資料、回答期限、権利留保を記載する | 立ち退き料請求書の文例 |
| 必要に応じ内容証明 | 回答内容や請求内容を記録化し、送付日・配達日を残す | 立ち退き内容証明の書き方 |
| 交渉する | 金額だけでなく、期限、先払い、賃料、敷金、原状回復等を一体で協議する | 立退料の交渉・増額 |
| 合意・明渡し | 合意書を作成し、支払条件を確認して、引越し・鍵の返還・精算を行う | 立退料の合意書/敷金と原状回復 |
| 合意できない | 民事調停や明渡し訴訟を見据え、主張と証拠を整理する | 立ち退き訴訟の流れ |
「立退料請求」は実務上よく使われる言葉ですが、どの借主にも当然に独立した金銭請求権が発生するという意味ではありません。普通借家で貸主が契約終了を求める場面では、財産上の給付の申出が正当事由を判断する一要素となるため、借主は明渡しに応じる条件として補償を求めて交渉します。
立ち退き料を請求できるかは契約と立ち退き理由で変わる
同じ「立ち退いてほしい」という通知でも、契約の種類や貸主の主張によって法的な位置付けは異なります。最初に普通借家、定期借家、契約違反による解除を区別してください。
普通借家で貸主都合の立ち退きを求められた場合
期間の定めがある普通借家では、貸主が期間満了による更新拒絶をするため、原則として期間満了の1年前から6か月前までの間に通知する必要があります。期間の定めがない普通借家では、貸主の解約申入れから6か月を経過することが必要です。
もっとも、通知期間を満たすだけで契約が終了するわけではありません。貸主からの更新拒絶や解約申入れには、借地借家法上の正当事由が必要です。借主は、通知が来たという理由だけで直ちに明け渡す義務を認める必要はありません。
定期建物賃貸借の場合
有効な定期建物賃貸借は、原則として契約期間の満了により終了し、普通借家の更新拒絶と同じ正当事由は求められません。そのため、立退料交渉の法的な前提も普通借家とは異なります。
ただし、契約名に「定期」と書いてあるだけで判断はできません。契約締結時の法定要件、事前説明、期間満了前の終了通知、更新や再契約の運用などを確認する必要があります。長年更新を繰り返している場合や書類が不足している場合は、契約類型そのものが争点になることがあります。
家賃滞納などの契約違反を理由とする場合
貸主が家賃滞納、無断転貸、用法違反、迷惑行為などを理由に契約解除を主張している場合は、貸主都合の正当事由型とは別の問題です。解除が有効であれば、立退料を支払って正当事由を補う場面ではないことがあります。
一方で、貸主が指摘する契約違反が事実と異なる、すでに解消されている、契約を解除できるほど重大ではないという場合もあります。通知書に「契約違反」「解除」と書かれているときは、滞納額、催告、支払履歴、写真、メールなどを早急に確認してください。
正当事由と立退料の関係
正当事由では、貸主と借主が建物を使用する必要性、賃貸借の経過、建物の利用状況、建物の現況、貸主が申し出た財産上の給付などを総合的に考慮します。立退料は、このうち財産上の給付に当たるものとして扱われます。
最高裁昭和46年6月17日判決は、立退料の提供だけで正当事由が生じるものではなく、他の事情と総合して相互に補完し合うと示しました。反対に、借主が被る損失のすべてを必ず全額補償しなければならないという単純な仕組みでもありません。
貸主側・借主側の事情や建物の状態によって立退料の役割は変わります。詳しい判断枠組みは、借地借家法の正当事由と立退料で補完される仕組みで確認してください。
貸主の通知に「契約終了」「退去期限」と書かれていても、その記載だけで終了が確定するとは限りません。契約類型、通知時期、正当事由、解除原因を確認する前に、退去届や合意書へ署名しないことが大切です。
立ち退き通知を受けた直後にすること
その場で退去や金額に同意しない
通知を受けた直後は、貸主の事情や提示額だけを聞いて判断しないでください。「分かりました」「その日までに出ます」「この金額で結構です」と答えると、後に合意の成立や交渉経過を判断する材料になる可能性があります。
まずは、「契約と移転条件を確認してから回答します」「書面で理由と希望条件を送ってください」と伝え、検討時間を確保します。すでに口頭で前向きな返事をした場合も、条件付きの検討段階であることを速やかに書面で明確にしてください。
賃料などの契約上の義務を勝手に止めない
立ち退き交渉中も賃貸借契約が続いている限り、賃料や共益費の支払、用法の遵守などは重要です。立退料が提示されないことへの対抗手段として賃料を止めると、貸主に契約解除の理由を与え、正当事由型の交渉を契約違反型の紛争へ変えてしまうおそれがあります。
貸主が賃料を受け取らない、振込先を閉じた、請求額が変わったなど通常どおり支払えない事情があるときは、放置せずに支払方法を確認し、必要に応じて供託を含む対応を専門家へ相談します。
通知内容と時系列を確認する
通知書の表題だけでなく、次の内容を確認することが重要です。
- 差出人:所有者、管理会社、転貸人、代理人弁護士のいずれか
- 対象物件:部屋番号、店舗区画、駐車場や倉庫の扱い
- 契約終了の理由:建替え、老朽化、自己使用、売却、再開発、契約違反など
- 希望退去日:契約期間、通知日、工事予定との関係
- 提示条件:立退料、引越費用、賃料免除、敷金、原状回復
- 回答期限:期限の根拠と、延長が必要か
証拠を一か所に集める
通知書、契約書、更新契約書、重要事項説明書、賃料の振込記録、メール、チャット、録音、貸主から受けた説明メモを一か所にまとめます。電話で話した後は、日時、相手、発言内容をメモし、重要な合意事項はメールなどで確認してください。
請求前に希望条件と根拠資料を整理する
立退料請求では、「いくら欲しいか」だけでなく、「いつまで使用したいか」「どの条件なら移転できるか」を決めます。金額と明渡時期は相互に関係するため、優先順位を整理しておくと交渉しやすくなります。
まず自分の希望を三段階で整理する
- 必ず確保したい条件:移転に不可欠な費用、最低限必要な準備期間、支払の先行など
- できれば確保したい条件:賃料免除、移転先紹介、原状回復免除、引越業者の手配など
- 譲歩できる条件:明渡日の幅、支払回数、残置物の処理方法など
すぐに移転できるので金額を重視する人もいれば、店舗営業や子どもの通学のため時間を重視する人もいます。相手の提示に反応する前に、自分の優先順位を決めてください。
住宅の借主が整理する費用・事情
住宅では、引越費用だけでなく、新居を借りるための初期費用や生活への影響を整理します。
- 引越業者、荷造り、家具・家電の移設や処分費
- 新居の敷金、礼金、仲介手数料、保証料、火災保険料
- 現住居と同等物件との賃料差額
- 通勤・通学、保育、介護、通院への影響
- 高齢者、障害者、保証人確保が難しい人の転居困難性
- 移転先の内見、契約、住所変更等に必要な時間と費用
店舗・事務所の借主が整理する費用・事情
事業用物件では、移転工事や営業への影響が大きくなりやすいため、見積書と事業資料を具体的に揃えます。
- 新店舗・事務所の保証金、礼金、仲介手数料、保証料
- 内装、電気、給排水、厨房、看板、通信設備等の移設・新設費
- 機械、什器、在庫、重量物の移転費
- 休業期間の固定費、営業利益への影響
- 顧客への移転告知、広告、ウェブサイト、印刷物の変更費
- 許認可、届出、従業員の通勤や取引先への影響
- 立地に依存する顧客、商圏、信用、のれんへの影響
売上減少や営業補償は、主張すれば当然に全額認められるものではありません。決算書、確定申告書、月次売上、顧客構成、移転候補地、休業予定などから、物件移転との因果関係を説明できるようにします。
集めておきたい資料
| 資料 | 確認・立証する内容 |
|---|---|
| 賃貸借契約書・更新書類 | 契約類型、期間、用途、敷金・保証金、原状回復、解約条項 |
| 立ち退き通知・貸主の説明 | 理由、通知日、退去希望日、提示条件 |
| 賃料の支払記録 | 滞納の有無、現行賃料、更新後の取扱い |
| 移転先候補の募集資料 | 近隣相場、広さ・用途が同等の物件、新旧賃料差 |
| 引越し・工事の見積書 | 実際に必要となる移転費用 |
| 写真・図面・設備一覧 | 現状、造作、設備、原状回復の対象 |
| 決算書・確定申告書・売上資料 | 事業実態、利益、休業・移転による影響 |
| メール・録音・交渉メモ | 貸主の説明、提示額、合意の有無、交渉経過 |
立退料の金額と一緒に交渉する条件
立ち退き料は家賃の何か月分だけで決めない
立ち退き料に全国一律の計算式はありません。賃料の数か月分という目安だけで決めると、住宅の初期費用や店舗の移転工事、休業の影響を十分に反映できないことがあります。
実務では、貸主の正当事由の強さ、借主の使用継続の必要性、建物の状態、賃貸借の経過、移転費用、賃料差額、事業への影響などを踏まえて、個別に交渉します。相場や費目の考え方は、立ち退き料の相場はいくらか、賃貸・店舗別の内訳と計算方法で詳しく解説しています。
金銭以外の条件も金額と同時に決める
| 項目 | 主な確認事項 |
|---|---|
| 明渡し期限 | 移転先探し、工事、営業、学期、介護等を踏まえた現実的な期日 |
| 支払時期 | 合意書締結時の一部先払い、明渡し前、明渡しと同時、明渡し後のいずれか |
| 退去までの賃料 | 通常どおり支払うか、減額・免除するか、日割り精算するか |
| 敷金・保証金 | 立退料とは別に返還額・返還日・控除項目を明記するか |
| 原状回復 | 取り壊し予定の場合の免除、造作・設備・残置物の扱い |
| 移転支援 | 物件紹介、引越業者、工事業者、行政手続への協力 |
| 期限変更 | 工事遅延や移転先未完成時の延長条件 |
たとえば、現金で受け取る立退料の額が少し低くても、数か月の賃料免除、原状回復免除、敷金の全額返還、移転費の先払いを組み合わせることで、実質的な条件が改善することがあります。
敷金・保証金は賃貸借上の債務を担保し、明渡し後に精算される金銭です。立退料とは役割が異なります。「立退料○円(敷金を含む)」という提示を受けたときは、立退料、敷金返還、原状回復控除を分解して確認してください。
立ち退き料はいつまでに、どのように請求するか
退去へ同意する前に請求条件を伝える
立退料交渉の申入れについて、「通知から何日以内」という一律の法定期限が定められているわけではありません。しかし、無条件で退去に同意した後、合意書に清算条項を入れた後、建物を明け渡した後では、条件交渉が難しくなります。
遅くとも退去合意書を取り交わす前に、立退料とその他の条件を提示し、未合意の事項を明確にしてください。貸主から短い回答期限を指定された場合も、必要な資料を集める時間が足りなければ、期限延長を求めます。
最初は口頭でもよいが、重要事項は書面に残す
交渉の入口は電話や面談でも構いません。ただし、請求金額、費目、明渡日、支払時期などは、メールや書面で残してください。口頭のやり取りだけでは、後に「金額は合意したが支払日は決めていない」「退去日だけ承諾した」といった争いが生じやすくなります。
請求書・回答書に記載する内容
立ち退き料の請求文書には、少なくとも次の内容を整理します。
- 差出人・宛先、対象物件、賃貸借契約の特定
- 受け取った立ち退き通知と、貸主が示した理由
- 現時点で退去に無条件で同意していないこと
- 希望する立退料の金額、費目、算定根拠
- 明渡時期、支払時期、敷金、原状回復等の希望条件
- 添付する見積書や募集資料
- 回答期限と回答方法
- 未確定事項について権利を留保する旨
具体的な文例と書き方は、立ち退き料請求書の文例|書き方・記載項目・送付方法を参照してください。
内容証明は証拠化が必要な場面で使う
相手が回答をしない、口頭説明が変わる、退去期限だけが迫っている、請求内容を正式に記録したい場合は、内容証明郵便を検討します。内容証明は、文書の内容や差出しを記録する制度であり、書いた事実の真実性や請求額の妥当性を証明するものではありません。
強い表現を使えば有利になるわけではなく、退去を承諾したように読める文言や、根拠のない断定を避ける必要があります。送るタイミングと文例は、立ち退き内容証明の書き方|文例・注意点・送るタイミングで確認してください。
回答期限は現実的に設定する
回答期限にも一律の法定日数はありません。相手が社内決裁や所有者確認をする時間を考え、たとえば1週間から2週間程度を目安に設定し、工事予定や退去希望日が近い場合は理由を付けて短縮します。期限を過ぎたときに自動的に請求が認められるわけではないため、期限後の再通知や交渉方針も決めておきます。
立ち退き交渉を進めるポイント
貸主の理由と予定を具体化する
貸主が「老朽化」「建替え」「自己使用」とだけ説明している場合は、建物の状態、耐震診断、工事計画、建築確認、資金計画、他の入居者との協議状況など、理由を具体化する資料を求めます。すべての資料を当然に開示させられるとは限りませんが、交渉条件や裁判の見通しを考える材料になります。
請求額を費目ごとに説明する
「相場だから○円」という主張より、引越見積、新居の初期費用、賃料差額、移転工事、休業期間などを分けて示す方が、貸主側も検討しやすくなります。見積額が確定していない費目は、概算と確定時期を示し、後から資料を追加します。
金額・期限・支払方法を一体で提案する
貸主が早い明渡しを重視する場合は、早期明渡しと引換えに支払額や先払い条件を改善できることがあります。借主が時間を重視する場合は、金額の一部を譲歩して明渡期限を延ばす選択肢もあります。
交渉では、次の条件を一つの提案書にまとめると、合意点と未合意点が分かりやすくなります。
- 立退料の総額と内訳
- 一部先払い・残額支払の時期
- 明渡日と期限延長条件
- 退去までの賃料・共益費
- 敷金・保証金の返還
- 原状回復・造作・残置物
交渉中に避けたい行動
- 立退料が決まらないことを理由に賃料を止める
- 根拠なく「必ず○円もらえる」と断定する
- 相手の信用を害する投稿や脅すような表現を使う
- 金額だけ合意し、支払日や明渡日を後回しにする
- 条件が固まる前に退去届、解約合意書、鍵返還書へ署名する
資料の作り方、増額交渉、期限設定、弁護士へ依頼する判断は、立退料の交渉・増額(資料・期限・弁護士)で詳しく解説しています。
合意書を作成してから支払・明渡しへ進む
口頭合意だけで引っ越さない
金額について大筋で合意しても、明渡日、支払日、敷金、原状回復が未確定なら、まだ最終合意ではありません。引越しや内装解体を先に始めると、後から条件が変わったときに交渉力を失うおそれがあります。
合意内容は、退去合意書、明渡合意書、合意解約書などの名称で書面化します。名称より、必要な条項が漏れなく記載されていることが重要です。
合意書で押さえる主な条項
| 条項 | 確認ポイント |
|---|---|
| 契約終了・明渡し | 対象物件、終了原因、明渡日、鍵の返還方法 |
| 立退料 | 金額、内訳、振込先、振込手数料、支払期限 |
| 支払と明渡しの順序 | 先払い、同時履行、残額支払の条件 |
| 退去までの費用 | 賃料、共益費、光熱費、日割り、免除期間 |
| 敷金・保証金 | 返還額、控除項目、返還時期、立退料との区別 |
| 原状回復・造作 | 免除範囲、撤去対象、買取り、残置物処分 |
| 期限変更・解除 | 移転先工事の遅延、支払遅延、条件不成就時の扱い |
| 清算条項 | どの請求を最終的に解決するか、未払金が残らないか |
借主側から確認すべき条項と不利になりやすい文言は、立退料の合意書(退去合意書)で押さえる条項で詳しく解説しています。
支払は明渡し前または同時を基本に検討する
立退料の支払時期は当事者の合意で決めます。借主側では、引越し費用や新居の初期費用が先に必要となることが多いため、一部を契約時に先払いし、残額を明渡しと同時に受け取る方法が考えられます。
明渡し後の支払とする場合は、具体的な振込日、遅延時の扱い、支払義務者の資力、保証の有無を確認します。鍵を返した後に支払を受けられないリスクを避けるため、入金確認と鍵返還を同時に行う手順も合意書へ記載します。
敷金・原状回復を最後に再確認する
明渡し時には、室内写真、メーター、鍵の本数、残置物、立会い内容を記録します。建物を取り壊す予定でも、原状回復が当然に免除されるとは限らないため、免除する範囲を合意書で明確にします。
立退料と敷金返還を一括で表示されている場合や、原状回復費用を立退料から控除するとされている場合は、立退料と敷金、相殺、原状回復の注意点を確認してください。
交渉で合意できない場合の調停・訴訟
民事調停で話し合う方法
当事者だけの交渉が停滞したときは、裁判所の民事調停を利用し、調停委員を介して条件を話し合う方法があります。調停は判決で一方的に決める手続ではなく、双方が合意した場合に成立します。
金額だけでなく、明渡日、分割・先払い、原状回復、敷金など柔軟な条件をまとめやすい一方、相手が合意しなければ解決しません。調停へ進む前に、希望条件と譲歩可能な範囲を決めておきます。
明渡し訴訟では正当事由と立退料が審理される
普通借家の貸主都合で交渉がまとまらない場合、貸主が建物明渡し訴訟を提起することがあります。借主は、契約が終了していないこと、正当事由が不足していること、提示された立退料では不利益を補えないことなどを、具体的な事実と証拠に基づいて主張します。
最高裁平成3年3月22日判決は、解約申入れ後に立退料の提供を申し出たり、当初の申出額を増額した場合でも、その金員を正当事由の判断で考慮できることを示しました。訴訟中も和解や増額の協議が行われることがありますが、意図的な遅延や根拠のない高額要求が有利になるわけではありません。
裁判所から届いた書類を放置しない
訴状、呼出状、答弁書催告状が届いたら、事件番号、請求内容、答弁書期限、第1回期日を確認します。何も提出せず欠席すると、貸主の主張に沿って審理が進むおそれがあります。
和解できず判決が確定し、それでも明け渡さない場合は、執行官による明渡しの強制執行へ進む可能性があります。訴状が届いた後の対応は、立ち退き訴訟(明渡し訴訟)になったときの流れ・費用・立退料で確認してください。
立退料請求の手続ごとの詳しい記事
請求書の作成、内容証明、訴訟、合意書、敷金・原状回復は、それぞれ確認すべき点が異なります。現在の段階に応じて、次の記事へ進んでください。
- 立ち退き料請求書の文例:請求趣旨、費目、回答期限、添付資料を具体的な文例で確認する
- 立ち退きの内容証明の書き方:借主側の文例、配達証明、送るタイミング、強すぎる表現の注意点を確認する
- 立ち退き訴訟になったとき:訴状受領後の答弁、証拠、和解、判決、強制執行までを確認する
- 立退料の合意書:明渡日、支払時期、違約条項、清算条項など署名前のチェック事項を確認する
- 立退料と敷金・原状回復:敷金返還、相殺、通常損耗、取り壊し時の原状回復免除を確認する
立退料請求でよくある質問
自分で立ち退き料を請求できますか?
自分で貸主へ希望条件を伝え、見積書を示して交渉することはできます。もっとも、普通借家か定期借家か、正当事由がどの程度あるか、店舗の営業損失をどう説明するかによって見通しが変わります。署名前や大きな譲歩をする前に、法律相談で契約と資料を確認する方法があります。
貸主から立退料の提示がなくても請求できますか?
貸主から提示がなくても、借主側から明渡しに応じる条件として金銭や期限を提案できます。ただし、立退料が自動的に発生するとは限らず、契約類型、貸主の理由、借主の事情を踏まえた交渉になります。
一度「退去します」と言ったら請求できませんか?
発言の内容、前後のやり取り、条件の提示、書面への署名、相手の受け止め方によって異なります。単なる検討の返事か、無条件の合意かを早めに整理し、条件未合意である場合は書面で明確にしてください。
引っ越した後でも立ち退き料を請求できますか?
明渡し後でも個別事情により争いが残る可能性はありますが、無条件で明け渡した後は、立退料を明渡し条件として交渉する力が大きく低下します。退去前に金額と支払義務を書面化し、清算条項の範囲を確認することが安全です。
立退料が決まるまで退去を拒み続けられますか?
通知を受けただけで直ちに退去が確定するわけではありませんが、正当事由が認められ、明渡しを命じる判決が確定すれば、最終的に強制執行へ進む可能性があります。交渉を長引かせること自体を目的にせず、契約、証拠、裁判の見通しを踏まえて対応します。
立退料の支払と鍵の返還はどちらが先ですか?
法律上すべての案件に共通する一つの順序があるわけではなく、合意書で決めます。借主側では、一部先払いと残額の同時履行、または全額入金確認と鍵返還を同時にする方法が、未払いリスクを抑えやすいでしょう。
まとめ|退去へ同意する前に条件と証拠を整える
立退料請求では、通知を受けた後の初動が、その後の金額・期限・合意内容に影響します。貸主の提案に即答せず、契約と理由を確認してから、移転に必要な費用と希望条件を整理してください。
- 普通借家・定期借家・契約違反型を最初に区別する
- 立退料は正当事由の一要素であり、自動的に発生するとは限らない
- 住宅・店舗ごとの費用を、見積書や事業資料で具体化する
- 請求書・内容証明で交渉条件を記録に残す
- 合意書、支払、敷金、原状回復を確認してから明け渡す
貸主の理由や提示額だけでは判断できない場合は、賃貸借契約書、通知書、これまでの交渉記録、移転費用の資料をまとめて相談すると、必要な確認と次の対応を整理しやすくなります。
坂尾陽弁護士
関連記事
立退料請求の前提となる法的な判断、金額の考え方、交渉の進め方は、次の記事も参考にしてください。
