貸主や管理会社から退去を求められ、「立ち退き料の請求書をどのように書けばよいか」「金額が決まっていなくても文書を出せるか」と迷う借主は少なくありません。
立ち退き料請求書には法律上の決まった様式はありませんが、合意前の交渉文書と、合意後に支払を求める請求書は分けて考える必要があります。合意前に一方的な金額だけを書いても支払義務が確定するわけではなく、反対に、文面によっては退去へ無条件で同意したと受け取られるおそれがあります。
この記事では、主に建物を借りている借主向けに、立ち退き料請求書の書き方、必要な記載項目、金額未確定・住宅・店舗や事務所・合意後の4つの文例、添付資料、回答期限、送付方法、送付後の交渉までを解説します。立ち退き料を請求する場合の流れと注意点を先に確認したい方は、立ち退き料を請求する方法と流れも参考にしてください。
- 合意前は「請求通知書」「回答書兼協議申入書」とする方が正確な場合がある
- 契約・通知・物件を特定し、退去へ未合意であることを明確にする
- 請求額は総額だけでなく、費目と根拠資料を示す
- 明渡日・支払時期・敷金・原状回復も一体で協議する
- 内容証明は必須ではなく、記録化の必要性に応じて選ぶ
坂尾陽弁護士
2009年 京都大学法学部卒業
2011年 京都大学法科大学院修了
2011年 司法試験合格
2012年~2016年 森・濱田松本法律事務所所属
2016年~ アイシア法律事務所開業

Contents
- 1 立ち退き料請求書とは|合意前と合意後で役割が違う
- 2 立ち退き料請求書を送る前の流れと注意点
- 3 立ち退き料請求書の書き方|記載する項目
- 4 文例1|金額が未確定で退去にも合意していない場合
- 5 文例2|住宅の借主が金額を示して請求する場合
- 6 文例3|店舗・事務所の借主が金額を示して請求する場合
- 7 文例4|合意成立後に発行する立ち退き料請求書
- 8 立ち退き料の内訳と添付資料
- 9 送付方法|普通郵便・メール・内容証明の選び方
- 10 回答期限は何日後に設定するか
- 11 立ち退き料請求書で避けたい表現・注意点
- 12 請求書を送った後の交渉と合意
- 13 立ち退き料請求書に関するよくある質問
- 14 まとめ|文例より先に文書の目的と立場を決める
立ち退き料請求書とは|合意前と合意後で役割が違う
「立ち退き料請求書」という言葉は、実務上、異なる段階の文書を指すことがあります。最初に文書の目的を分けると、書くべき内容と避けるべき表現が明確になります。
| 段階 | 文書の主な役割 | 表題の例 |
|---|---|---|
| 条件が未合意 | 貸主の提案へ回答し、立退料・明渡日その他の協議を申し入れる | 回答書兼協議申入書 立退料請求通知書 |
| 金額案を提示する | 費目別の請求案と退去条件を示し、書面での回答を求める | 立退料等請求通知書 明渡条件提案書 |
| 合意が成立済み | 合意書に基づく確定額、支払期限、振込先を案内する | 立退料請求書 請求書 |
合意前の文書は「交渉の申入れ」
貸主が退去を求めたとしても、立退料の金額や支払義務が自動的に確定するわけではありません。借主から請求書を送っただけで、その金額を貸主が支払う法的義務が直ちに生じるものでもありません。合意前の文書は、借主の立場、確認事項、請求案、回答期限を記録し、交渉を始めるために使います。
合意後の請求書は「支払手続の案内」
立退料、明渡日、支払時期などを合意書で確定した後は、その合意に基づいて請求書を発行できます。この段階では、請求書に長い法律論を繰り返すよりも、合意書の日付、請求額、支払期限、振込先を正確に記載することが重要です。
この記事は、アパート・マンションなどの住宅、店舗・テナント・飲食店・事務所などの建物について、主に貸主側の事情で退去を求められた借主を想定しています。定期建物賃貸借の期間満了、家賃滞納等による解除、借地、公共事業による移転補償では前提が異なります。
立ち退き料請求書を送る前の流れと注意点
文例へ氏名と金額を入れる前に、契約がどのような理由で終了すると主張されているのかを確認します。この確認を飛ばすと、請求の前提がずれたり、借主に不利な事実を自ら認めたりするおそれがあります。
普通借家・定期借家・契約違反型を区別する
- 普通借家で貸主都合の場合:
更新拒絶や解約申入れには、通知時期や正当事由が問題になります。立退料は正当事由を判断する一要素です。 - 定期建物賃貸借の場合:
適法な定期借家で期間が満了する場面では、普通借家と同じ前提で立退料を請求できるとは限りません。契約書と事前説明書面を確認します。 - 家賃滞納・無断転貸などを理由とする場合:
貸主都合の正当事由型とは異なり、債務不履行解除の成否が中心になります。一般的な文例をそのまま使わない方が安全です。
立ち退き料は正当事由の補完要素
普通借家で貸主が更新を拒絶し、又は解約を申し入れる場面では、借地借家法28条により、貸主と借主が建物を必要とする事情、従前の経過、利用状況、建物の現況、財産上の給付の申出などが総合考慮されます。いわゆる立ち退き料は、それだけで正当事由を生み出すものではなく、他の事情を補完する要素です。
最高裁昭和46年6月17日判決も、立退料等の金員は他の事情と総合考慮され、相互に補完し合って正当事由の判断材料になるとしています。請求書では「法律上当然にこの金額を払う義務がある」と断定するより、貸主の理由と借主の不利益を踏まえ、明渡条件として協議を求める方が実態に合います。詳しい判断要素は、借地借家法の正当事由と立退料の関係で解説しています。
まずは交渉で解決を目指す
立ち退き料を請求する場合は、自分で行う場合も弁護士に依頼する場合も、まずは交渉での解決を目指すのが一般的です。もっとも、短い退去期限が示されている、相手方代理人から通知が届いている、既に訴訟になっているなどの事情があれば、文書を送る前に対応方針を確認する必要があります。
退去届・合意書へ先に署名しない
「退去日は後で相談する」「立退料は検討する」と言われても、無条件の退去届や解約合意書へ先に署名すると、その後の交渉が難しくなることがあります。請求書を作る前に、署名済み書類、メール、録音、管理会社とのやり取りを整理してください。
立ち退き料請求書の書き方|記載する項目
請求書に法定の定型様式はありません。ただし、誰が、どの物件について、どの通知へ回答し、何を求めているかが第三者にも分かる内容にします。
| 記載項目 | 書き方のポイント |
|---|---|
| 表題・作成日 | 合意前は「回答書兼協議申入書」「立退料等請求通知書」など、文書の目的が分かる表題にする |
| 宛先・差出人 | 貸主本人又は法人名・代表者名を確認し、借主の住所・氏名・連絡先を記載する |
| 対象物件 | 所在地、建物名、部屋番号・区画、賃貸借契約日などを特定する |
| 通知の特定 | いつ、誰から、どのような理由と希望明渡日を示されたかを書く |
| 現在の立場 | 契約終了や明渡条件へ未合意なら、その点を明確にする |
| 請求・提案内容 | 立退料総額、費目別内訳、明渡日、支払時期、敷金・原状回復等を示す |
| 算定根拠・資料 | 見積書、代替物件資料、決算書等との対応が分かるようにする |
| 回答期限 | 一律の法定期限ではないため、資料量や緊急性を踏まえ現実的な日を設定する |
| 権利留保 | 金額が暫定なら追加資料による修正可能性、無条件承諾ではないことを記載する |
物件と通知を特定する
同じ貸主から複数の部屋や区画を借りている場合もあるため、所在地だけでなく建物名、部屋番号・区画、契約日を記載します。貸主の通知書がある場合は、「令和○年○月○日付通知書」と特定すると、どの提案への回答かが明確になります。
退去への同意の有無を明確にする
まだ条件を検討している段階なら、「現時点で契約終了、明渡日その他の条件に合意したものではありません」と記載します。条件が整えば退去する意向がある場合も、「下記条件について書面合意が成立し、所定の支払がなされることを前提に協議する」と書く方が安全です。
立退料は総額と内訳を対応させる
請求額を示す場合は、総額だけでなく、引越費用、新規契約費用、賃料差額、移転工事費、休業損失などの内訳と根拠を対応させます。もっとも、立退料は単純な損害賠償請求と同じではないため、実費の合計だけで最終額が決まるわけでもありません。金額の考え方は、立ち退き料の相場と計算方法を確認してください。
金銭以外の条件も書く
借主にとって重要なのは、金額だけではありません。明渡日、支払日、退去までの賃料、敷金返還、原状回復、造作・残置物、解約違約金、鍵の返還方法などを同時に整理します。これらを後回しにすると、立退料の金額で合意した後に別の費用が差し引かれることがあります。
文例1|金額が未確定で退去にも合意していない場合
貸主の理由や資料が不足している、移転費用を調査中である、退去するか自体を検討中である場合の文例です。最初の回答で無理に金額を固定せず、確認事項と協議の入口を示します。
| 回答書兼協議申入書の文例 |
|---|
| 令和[ ]年[ ]月[ ]日
[貸主の住所] [貸主の氏名又は法人名・代表者名] 殿 [借主の住所] [借主の氏名又は法人名・代表者名] 回答書兼協議申入書 私は、貴殿から令和[ ]年[ ]月[ ]日付で、賃借中の[物件所在地・建物名・部屋番号又は区画]について、[通知に記載された理由]を理由として、令和[ ]年[ ]月[ ]日までの明渡しを求める通知を受けました。 現時点では、賃貸借契約の終了、明渡日、立退料その他の明渡条件について合意したものではありません。 本件については、契約内容、明渡しを求める具体的理由、当方が本物件の使用を必要とする事情、移転により生じる費用及び損失等を確認した上で、立退料その他の条件を協議したいと考えています。 つきましては、[回答希望日]までに、①更新拒絶又は解約申入れの具体的理由と根拠資料、②希望する明渡日、③立退料その他の条件に関する貴殿の提案、④敷金・原状回復・退去までの賃料の取扱いについて、書面でご回答ください。 当方の請求額及び明渡条件は、資料収集と検討を経た後に提示します。本書面は、明渡し又は契約終了への無条件の承諾を示すものではなく、当方の権利を放棄するものでもありません。 以上 |
立退料の金額が決まっていなくても、貸主の理由・提案・資料を求め、条件協議を申し入れる文書は送れます。根拠が揃わない段階で推測額を断定するより、まず確認事項を明確にする方がよい場合があります。
文例2|住宅の借主が金額を示して請求する場合
引越し先の見積りや初期費用がある程度そろい、条件が整えば明け渡す意向がある住宅の借主向けの文例です。金額は事案ごとに異なるため、[ ]内を資料に合わせて置き換えます。
| 住宅向けの立退料等請求通知書の文例 |
|---|
| 令和[ ]年[ ]月[ ]日
[貸主の住所] [貸主の氏名又は法人名・代表者名] 殿 [借主の住所] [借主の氏名] 立退料等請求通知書 私は、貴殿から賃借している[物件所在地・建物名・部屋番号]について、令和[ ]年[ ]月[ ]日付通知書により、[建替え・自己使用等の通知理由]を理由とする明渡しの要請を受けました。 当方は、本件物件を生活の本拠として使用しており、転居には引越費用、新居の契約費用、賃料差額その他の負担が生じます。現時点で、通知記載の条件のみで明渡しに応じることはできません。 もっとも、下記条件について書面による合意が成立し、立退料が合意した期限までに支払われる場合には、令和[ ]年[ ]月[ ]日までの明渡しに向けて協議する用意があります。 一 立退料 総額金[ ]円 内訳案 ①引越費用[ ]円、②新居の礼金・仲介手数料・保証料等[ ]円、③賃料差額[ ]円、④移転に伴うその他費用[ ]円、⑤その余の明渡条件を踏まえた調整額[ ]円 二 支払時期 [明渡し前/明渡しと同時]に、合意書記載の方法で支払うこと 三 敷金 立退料とは別に、賃貸借契約と合意書に基づき精算・返還すること 四 原状回復 建物の取壊し予定その他の事情を踏まえ、範囲と負担を別途書面で確認すること 本通知記載の金額及び条件は現時点の資料に基づく協議案であり、追加資料又は貴殿の提案内容に応じて修正することがあります。[回答希望日]までに書面でご回答ください。 以上 |
文例3|店舗・事務所の借主が金額を示して請求する場合
店舗、テナント、飲食店、事務所では、単なる引越費用だけでなく、内装・設備の再設置、休業、顧客への告知、立地変更による事業への影響などが問題になります。主張する費目は、契約書、見積書、決算書等で説明できる範囲から組み立てます。
| 店舗・事務所向けの立退料等請求通知書の文例 |
|---|
| 令和[ ]年[ ]月[ ]日
[貸主の住所] [貸主の氏名又は法人名・代表者名] 殿 [借主法人の所在地] [法人名・代表者名] 立退料等請求通知書 当社は、貴殿から賃借している[物件所在地・建物名・区画]において[事業内容]を営んでいます。令和[ ]年[ ]月[ ]日付通知書により、[建替え・再開発・自己使用等]を理由とする明渡しの要請を受けました。 本件物件は、当社の営業拠点として[利用期間]にわたり使用しており、移転には代替物件の確保、内装・設備工事、什器等の移設、休業、顧客・取引先への告知その他の負担が生じます。通知記載の時期及び条件のみで明渡しに応じることはできません。 当社は、下記条件について合意書を締結し、立退料が合意した期限までに支払われることを前提として、明渡しに向けた協議を行う用意があります。 一 立退料 総額金[ ]円 内訳案 ①代替物件の契約費用[ ]円、②引越し・什器設備移設費[ ]円、③内装・設備工事費[ ]円、④賃料差額[ ]円、⑤休業・移転告知等に伴う損失[ ]円、⑥その余の明渡条件を踏まえた調整額[ ]円 二 明渡日 繁忙期、工事期間、許認可・設備移設等を踏まえ、令和[ ]年[ ]月[ ]日とすること 三 支払時期 移転着手前に金[ ]円を支払い、残額を明渡しと同時に支払うこと 四 原状回復・造作・残置物 撤去範囲、費用負担、買取り又は残置の可否を合意書で確定すること 五 敷金・保証金 立退料とは区別し、契約及び合意内容に従って精算・返還すること 添付又は別送する見積書・代替物件資料・事業資料をご確認の上、[回答希望日]までに書面でご回答ください。本書面は、上記条件未成就のまま明渡し又は契約終了へ合意するものではありません。 以上 |
営業損失を記載するときは、売上高をそのまま請求額にするのではなく、休業期間、粗利益、固定費、移転後の回復見込みなど、何をどの資料で説明するかを整理します。営業上の事情を厚く主張するほど、決算書・確定申告書・月次資料等との整合性が重要になります。
文例4|合意成立後に発行する立ち退き料請求書
合意書を締結した後、貸主の経理処理等のために請求書を求められた場合の文例です。合意内容を変更しないよう、合意書の表現と金額を一致させます。
| 合意後の立退料請求書の文例 |
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| 請求書
請求日 令和[ ]年[ ]月[ ]日 [貸主の氏名又は法人名] 御中 [借主の住所又は所在地] [借主の氏名又は法人名・代表者名] 令和[ ]年[ ]月[ ]日付明渡合意書第[ ]条に基づき、下記のとおり立退料を請求します。 請求金額 金[ ]円 支払期限 令和[ ]年[ ]月[ ]日 振込先 [金融機関名・支店名・預金種別・口座番号・口座名義] 摘要 [物件所在地・建物名・部屋番号又は区画]の明渡しに関する立退料 振込手数料その他の取扱いは、上記合意書の定めによります。 以上 |
合意後の請求書だけで権利関係を完結させず、明渡しの条件は合意書で管理します。合意書には、立退料の支払時期、明渡日、鍵の返還、敷金・保証金、原状回復、造作・残置物、清算条項などを記載します。詳しくは、立退料の合意書で押さえる条項を確認してください。
立ち退き料の内訳と添付資料
請求額を説得的に示すには、費目ごとの資料を対応させます。ただし、すべての費目が当然に全額認められるわけではなく、物件の種類、貸主・借主双方の必要性、代替可能性、契約内容、立退理由などにより評価が変わります。
住宅で整理する主な費目
- 引越費用:引越業者の見積書、梱包・処分費用の資料
- 新居の初期費用:礼金、仲介手数料、保証料、鍵交換費用等の募集図面・見積り
- 賃料差額:現在の賃料と、近隣で同程度の代替物件の賃料を比較する資料
- 移転に伴う個別費用:通学・通院・介護・設備等に関して現実に生じる追加負担の資料
店舗・事務所で整理する主な費目
- 物件取得費:保証金、礼金、仲介手数料、保証料等の資料
- 移転・工事費:什器、設備、看板、内装、通信、原状回復等の相見積り
- 賃料差額:用途・面積・立地・設備条件が近い代替物件の比較表
- 休業・営業への影響:決算書、確定申告書、月次試算表、売上資料、繁忙期資料
- 顧客・取引先への告知費用:看板、広告、ウェブサイト、郵送等の見積り
弁護士に相談するときに必要なもの
現在の契約関係と移転損失を早く把握できるよう、賃貸借契約書、更新書類、立ち退き通知書、交渉メール・録音、移転費用の見積書、代替物件資料、店舗の場合は確定申告書や決算書等を準備します。資料が一部不足していても、いつ何があったかを時系列でまとめると相談しやすくなります。
送付方法|普通郵便・メール・内容証明の選び方
立ち退き料請求書は、必ず内容証明で送らなければならないわけではありません。交渉状況と証拠化の必要性に応じて方法を選び、送った文書と添付資料の控えを保管します。
| 方法 | 向いている場面 | 注意点 |
|---|---|---|
| メール | 管理会社等と継続的に連絡が取れており、資料を同時に送りたい | 送信日時、宛先、添付ファイルを保存する |
| 普通郵便・簡易書留等 | 文書と見積書等をまとめて送り、受領記録を残したい | 送付物一式の写しと追跡記録を保管する |
| 内容証明+配達証明 | 主張内容と送付時期を明確に記録する必要が高い | 記載内容の真実性や請求の妥当性まで証明されるわけではない |
内容証明にすべきか
貸主が回答を翻している、短い期限を一方的に示している、重要な権利留保を残したいなどの場面では、内容証明が役立つことがあります。他方、交渉開始直後に強い文面を送ると話合いが硬直することもあります。内容証明の制度、書式、送るタイミングは、借主向けの立ち退き内容証明の書き方で詳しく解説しています。
添付資料は別送又はメールで管理する
内容証明では、見積書や写真を内容文書の一部として証明する方法には制約があります。本文で「別紙見積書」等を特定し、資料は別便やメールで送る方法を検討します。どの資料をいつ送ったかが分かるよう、送付状と控えを残してください。
回答期限は何日後に設定するか
立ち退き料請求書への回答期限について、すべての案件に共通する法定日数はありません。実務上は、文書到達後7日から14日程度を一つの出発点にできますが、金額が大きい、社内決裁が必要、資料が多い、休日を挟むなどの事情があれば、より長い期間が適切です。
期限を過ぎた場合も、自動的に請求額が確定したり、貸主が承諾したことになったりするわけではありません。「期限までに回答がない場合は、今後の対応を検討します」など、実際に取り得る対応に沿った表現にします。
立ち退き料請求書で避けたい表現・注意点
請求書は後の交渉や訴訟で資料として読まれる可能性があります。感情をぶつけるより、確認できる事実、借主の立場、根拠資料、協議条件を淡々と記載します。
- 「通知どおり退去します」:条件未合意なら、無条件の退去承諾と読まれないようにする
- 「法律上、必ず請求額全額を払う義務がある」:立退料の位置付けと個別判断を無視した断定を避ける
- 「払わなければ営業妨害をする」などの威圧表現:適法な交渉の範囲を超える表現を使わない
- 根拠のない高額な内訳:見積書や事業資料と矛盾する数字を並べない
- 「本書面に回答しなければ承諾したものとみなす」:一方的なみなし合意を前提にしない
- 立退料に敷金返還を含める曖昧な表現:立退料、敷金・保証金、未払賃料、原状回復費を分ける
「立退料を支払ってください。退去日は○月○日です」とだけ書くと、支払条件が整わなくても退去日へ合意したと主張される余地があります。条件付きの協議案なのか、既に成立した合意の履行請求なのかを明確にしてください。
消費税や税務上の名称を機械的に決めない
立退料、営業補償、移転費用、造作の対価など、支払の性質によって税務上の取扱いが異なり得ます。文例だけを根拠に「税別」「消費税なし」等を一律に記載せず、必要に応じて税理士等へ確認してください。
個人情報・営業秘密を送りすぎない
決算書、顧客情報、従業員情報、通院資料などを提出する場合は、請求の説明に必要な範囲を検討します。マスキング、閲覧場所の限定、秘密保持条項などを用い、交渉に不要な情報まで相手へ渡さないようにします。
請求書を送った後の交渉と合意
貸主の回答を論点ごとに整理する
回答が届いたら、立退料総額だけで判断せず、貸主の正当事由、明渡日、支払日、敷金・保証金、原状回復、造作、未払賃料等に分けて確認します。請求額を下げる代わりに明渡期間を確保する、原状回復を免除するなど、金額以外の条件を組み合わせることもあります。
請求額と譲歩案を混同しない
最初の請求額、根拠資料で説明できる額、早期解決のための譲歩案を区別します。理由なく金額だけを上下させると、請求の説得力が弱くなります。交渉材料の整理方法は、立退料の交渉・増額の進め方を参考にしてください。
合意書と支払を確認してから明け渡す
口頭で金額がまとまっても、先に鍵を返還したり、無条件の解約届を提出したりしないようにします。合意書を締結し、支払時期と明渡しの順序を確認してから実行します。敷金・原状回復の精算は立退料と分け、必要に応じて立退料と敷金・原状回復の注意点も確認してください。
立ち退き料請求書に関するよくある質問
立ち退き料請求書は自分で作成できますか?
作成自体は可能であり、法律上の専用様式もありません。ただし、退去への同意、契約終了、請求額、明渡条件の表現は、その後の交渉に影響します。既に相手方に弁護士がいる、店舗移転の損失が大きい、退去期限が迫っている場合は、送付前に確認を受ける方が安全です。
金額を書かずに送ってもよいですか?
金額未確定である理由を示し、貸主の資料・提案を求める文書は送れます。「資料収集後に請求額を提示する」「現時点では権利を留保する」と記載し、退去へ無条件で合意したと読まれないようにします。
請求書は必ず内容証明で送る必要がありますか?
必須ではありません。交渉の段階、相手との連絡状況、証拠化の必要性に応じ、メール、簡易書留、内容証明等を選びます。内容証明は文書の内容等を記録できますが、請求内容が正しいことや金額が妥当であることまで証明するものではありません。
回答期限は7日や14日にしなければなりませんか?
そのような一律の法定期限はありません。7日から14日程度は一つの例にすぎず、相手の検討に必要な時間と、借主側の緊急性を踏まえて設定します。期限を過ぎても、相手が請求額を承諾したことにはなりません。
管理会社と貸主のどちらへ送りますか?
原則として、賃貸借契約の相手方である貸主へ届くようにします。管理会社が交渉窓口となっている場合は管理会社へ送ることもありますが、貸主への転送権限・代理権が不明なら、貸主と管理会社の双方へ送る方法を検討します。法人の場合は、本店所在地や代表者名も確認してください。
立ち退いた後でも請求書を送れますか?
明渡し後でも、既に成立していた合意の支払請求などが残る場合はあります。しかし、無条件で明け渡した後は、立退料を明渡条件として交渉する力が大きく低下します。明渡し前に金額・支払時期を書面化し、清算条項の範囲を確認することが重要です。
請求書に印鑑は必要ですか?
立退料請求書について、押印がなければ一律に無効となる決まりはありません。もっとも、差出人を明確にし、合意書や契約書の名義と一致させます。法人の場合は社内ルールや相手方の経理手続も確認してください。
まとめ|文例より先に文書の目的と立場を決める
立ち退き料請求書は、単に金額を記載する用紙ではありません。合意前は借主の立場と明渡条件を示す交渉文書であり、合意後は確定した支払を求める手続書類です。どの段階の文書かを明確にしてから文例を使ってください。
- 契約類型、通知理由、希望明渡日を確認する
- 合意前は、退去へ未合意であること又は条件付きであることを明記する
- 請求額は費目・根拠資料と対応させる
- 明渡日、支払時期、敷金、原状回復まで一体で協議する
- 合意書と入金条件を確認してから明け渡す
請求書を作成する段階では、賃貸借契約書、立ち退き通知書、交渉記録、移転費用の見積書、代替物件資料を一か所にまとめます。自分の立場や金額の根拠を文面へ落とし込めない場合は、送付前に資料と方針を確認してください。
坂尾陽弁護士
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