公共事業・用地買収の営業補償は、道路拡張や河川改修などにより店舗・工場・事務所等を移転し、営業の休止、仮営業所での営業、規模縮小又は営業廃止が必要になる場合に、営業者が通常受ける損失を補う制度です。
営業補償には、売上高や賃料の何か月分という一律の相場はありません。営業の類型を決めたうえで、休業期間、固定的経費、収益又は所得の減少、従業員の休業手当、得意先の一時的喪失、商品等の減損、移転広告費などを項目別に算定します。
提示額を検討するときは、合計額だけを見るのではなく、どの営業補償の類型が選ばれ、何日間の補償期間とされ、決算書のどの数字が採用され、どの経費が固定費又は変動費に分類されたのかを確認することが重要です。
- 営業補償は、土地代や建物移転補償とは別の補償項目です
- 営業休止、仮営業所、営業規模縮小、営業廃止では算定項目が異なります
- 売上高そのものではなく、収益・所得、固定費、顧客喪失等を分けて算定します
- 決算書、帳簿、賃金資料、設備・在庫資料、移転工程の裏付けが重要です
- 補償契約への署名前に、算定内訳と前提条件を確認する必要があります
坂尾陽弁護士
2009年 京都大学法学部卒業
2011年 京都大学法科大学院修了
2011年 司法試験合格
2012年~2016年 森・濱田松本法律事務所所属
2016年~ アイシア法律事務所開業

Contents
公共事業・用地買収の営業補償とは
土地収用法88条は、土地の収用又は使用により土地所有者や関係人が通常受ける営業上の損失を補償対象としています。具体的な営業廃止・営業休止等の内容は、土地収用法第88条の2の細目等を定める政令や、公共用地の取得に伴う損失補償基準等で整理されています。
実務上は、任意の用地買収でも、国や地方公共団体等が適用する補償基準に基づいて営業調査と算定が行われます。任意交渉がまとまらず土地収用法上の手続に進む場合も、営業上の損失は補償の対象となり得ます。
営業補償を受けるのは実際に営業上の損失を受ける事業者
営業用の土地や建物の所有者と、そこで営業している事業者が同じとは限りません。テナント、転借人、フランチャイジー、支店を運営する法人など、実際に営業上の損失を受ける者について、営業実態と権利関係を確認して補償対象を判断します。
| 補償項目 | 主な対象 | 確認する内容 |
|---|---|---|
| 土地・権利の補償 | 土地所有者、借地権者等 | 取得面積、土地価格、権利割合 |
| 建物・工作物・機械設備の補償 | 各物件の所有者 | 移転工法、再築・移設費、所有関係 |
| 借家人補償 | 移転を要する借家人・テナント | 代替物件、一時金、家賃差額等 |
| 営業補償 | 営業上の損失を受ける営業者 | 営業類型、補償期間、収益・経費・従業員・顧客等 |
賃借店舗で営業している場合、公共事業の借家人補償と営業補償の双方が問題になることがあります。ただし、同じ損失を二重に補償するものではないため、費目を切り分けて確認します。
公共事業の営業補償は、土地収用法や公共用地の補償基準に基づく損失補償です。民間の貸主が建替え等を理由に求める立ち退きで、正当事由を補完する立退料とは、法的根拠も算定の考え方も異なります。
営業補償の4つの類型
営業補償は、移転後に営業をどのように再建できるかによって類型が変わります。実務上は、次の4つに分けて整理すると分かりやすくなります。なお、仮営業所補償は、営業休止等の補償の中で営業を継続する方法として扱われます。
| 類型 | 基本的な場面 | 主な補償項目 |
|---|---|---|
| 営業休止補償 | 移転のため営業を一時的に休止し、移転後に再開できる | 固定的経費、休業手当、収益・所得減、得意先喪失、商品等の減損、移転広告費等 |
| 仮営業所補償 | 営業を止めず、仮店舗・仮工場等で一時的に継続することが必要かつ相当 | 仮営業所の設置・賃借費、仮営業による収益減や経費増、顧客喪失、二度の移転費等 |
| 営業規模縮小補償 | 取得後も営業は継続できるが、面積・設備・人員等を縮小せざるを得ない | 固定資産の売却損、解雇関係費用、遊休化損失、経営効率低下による損失等 |
| 営業廃止補償 | 社会通念上妥当な移転先がなく、営業の継続が通常不能 | 営業権等、資産・商品等の売却損、労働関係損失、転業期間中の収益・所得等 |
営業休止補償は移転後に営業を再開できる場合
店舗や工場を移転する間だけ営業を止め、移転先で同種の営業を再開できる場合は、営業休止補償が基本となります。補償期間は、単に希望する休業期間ではなく、移転方法、工事工程、機械設備の移設、商品整理、許認可手続、開店準備などから通常必要な期間を認定します。
仮営業所補償は営業継続の必要性と費用比較がポイント
仮営業所を設ければ必ず補償されるわけではありません。営業活動を休止させることが社会的に妥当でない場合、適切な仮営業所を確保できる場合、仮営業所方式の補償額が営業休止方式と比較して相当である場合など、必要性と合理性が検討されます。
営業規模縮小補償は一部取得後の経営効率も確認する
土地や建物の一部を取得されても営業を続けられる一方、売場、客席、製造ライン、駐車場、保管スペース等が減少し、事業規模を縮小せざるを得ない場合があります。このときは、単純な面積減少率だけでなく、余剰となる設備・人員や、単位当たりコストの上昇なども確認します。
営業廃止補償は営業者が自由に選べるものではない
営業者が実際に廃業する予定であっても、それだけで営業廃止補償になるわけではありません。法令・立地・物理的条件、顧客との密着性、特殊設備、許認可、代替地の有無などから、営業の継続が通常不能と客観的に認められる必要があります。詳しくは、営業廃止補償と営業休止補償の違い・認定要件をご確認ください。
営業廃止補償は、補償額が大きくなりそうという理由で選択できる制度ではありません。主位的に営業廃止を主張する場合でも、休止、仮営業所又は規模縮小で再建できるかを検討し、代替案の算定も準備することが重要です。
営業休止補償で計算する主な項目
営業補償で最も多く問題になるのが営業休止補償です。国土交通省系の基準では、営業休止中と営業再開後に通常生ずる損失を、次のように分けて算定します。
固定的経費
固定的経費とは、営業を休止して売上がなくても、休業期間中に通常支出を続ける必要がある経費です。
- 租税公課等:営業用資産に関する固定資産税、自動車税等
- 賃借料・基本料金等:休業中も契約上支払う必要がある賃料、通信・設備等の基本料金
- 保険料・維持費等:営業用資産の保険料、必要な維持管理費
- 借入金利息等:営業用資産に関する借入金利息のうち認定対象となるもの
- 社会保険料等:休業手当を支払う従業員に係る事業主負担分等
会計帳簿上の科目名だけで固定費か変動費かが決まるわけではありません。たとえば水道光熱費でも、使用量に応じて止まる部分と基本料金等の残る部分があります。営業実態に即して費用を分解します。
従業員に対する休業手当相当額
休業中も雇用を維持するために従業員へ休業手当を支払う必要がある場合、その相当額が検討されます。国土交通省系の運用では、平均賃金に補償率と補償期間を乗じて算定し、標準率を設けつつ個別事情で調整します。
同一経営者の別店舗で勤務できる従業員、休止に関係なく外勤できる従業員、一時的な臨時雇用者などについては、減額又は対象外となることがあります。そのため、従業員ごとの職種、勤務場所、雇用形態、賃金を確認します。
休業期間中の収益減又は所得減
法人では通常、認定された収益を、個人事業では認定された所得を基礎に、通常必要な休業期間に対応する減少額を算定します。ここでいう収益・所得は、売上高そのものではありません。
営業の一部をオンライン販売、外回り、別店舗等で継続できる場合は、その間に得られると見込まれる収益又は所得を控除することがあります。反対に、移転対象の店舗だけが独立して利益を上げている場合は、法人全体の数字だけでなく店舗別資料が重要になります。
一時的な得意先喪失による損失
休業や店舗移転により、再開後も一時的に顧客が戻らず売上が低下することがあります。この損失は、一般に、従前の1か月の売上高、売上減少率、限界利益率を用いて算定します。
固定客の割合、商圏、来店頻度、移転距離、業種、営業年数、販売方法などが影響するため、顧客名簿だけでなく、POSデータ、会員数、予約履歴、エリア別売上等が役立つことがあります。
商品・仕掛品等の減損と移転広告費
商品や仕掛品を移転・保管することで、破損、鮮度低下、品質低下、再包装等の損失が通常生じる場合は、その減損を検討します。また、移転通知、広告、看板の書替え、開店案内、車両表示の変更、法令上の手続など、移転に伴い通常必要となる費用も対象になり得ます。
機械設備そのものの移設費、商品等の運搬費、建物の移転費は、営業補償以外の物件補償・動産移転料として算定されることがあります。営業補償の内訳だけでなく、全補償項目を横断して漏れと二重計上を確認してください。
営業補償の計算方法
国土交通省が公開する補償基準等や、地方整備局の営業補償調査算定要領では、営業休止補償について次のような算定方法が示されています。
| 補償項目 | 算定の基本形 | 主な確認資料 |
|---|---|---|
| 固定的経費 | 年間固定的経費認定額 × 補償期間の日数 ÷ 365 | 決算書、総勘定元帳、契約書、納付書等 |
| 収益減・所得減 | 年間認定収益又は所得額 × 補償期間の日数 ÷ 365 | 申告書、損益計算書、月次試算表、店舗別損益等 |
| 従業員の休業手当相当額 | 平均賃金 × 補償率 × 補償期間の日数 | 賃金台帳、雇用契約、従業員調査表等 |
| 得意先喪失 | 従前1か月の売上高 × 売上減少率 × 限界利益率 | 売上帳、顧客・商圏資料、費用分解資料等 |
| 商品等の減損 | 移転・保管で通常生ずる減損額 | 棚卸表、仕入原価、賞味期限、運搬・保管見積等 |
| 移転広告費等 | 通常必要な数量・単価・回数による積上げ | 見積書、顧客数、広告実績、看板・車両資料等 |
この表は計算構造を理解するための基本形です。実際には、適用される補償基準、業種、法人・個人の別、消費税等の扱い、営業継続の程度、資料の信用性などにより認定が変わります。
営業休止補償の簡易な計算例
次は、計算の仕組みを示すための仮定例です。実際の補償額や補償期間を示すものではありません。
- 補償期間:60日
- 年間固定的経費認定額:365万円
- 年間認定収益:730万円
- 従業員3名の平均賃金:1人1日1万円、補償率80%
- 従前1か月の売上高:500万円、売上減少率10%、限界利益率40%
- 商品等の減損15万円、移転広告費等20万円
| 項目 | 計算 | 例示額 |
|---|---|---|
| 固定的経費 | 365万円 × 60 ÷ 365 | 60万円 |
| 収益減 | 730万円 × 60 ÷ 365 | 120万円 |
| 休業手当相当額 | 1万円 × 80% × 60日 × 3名 | 144万円 |
| 得意先喪失 | 500万円 × 10% × 40% | 20万円 |
| 商品等の減損 | 個別の調査・見積り | 15万円 |
| 移転広告費等 | 個別の数量・単価の積上げ | 20万円 |
| 合計 | 上記の合計 | 379万円 |
この例でも、売上高500万円の60日分をそのまま補償しているわけではありません。休業中も残る経費、失われる利益、従業員対応、再開後の顧客喪失などを別々に計算しています。
補償期間は移転工程から決まる
補償期間が1か月違うだけで、固定的経費、収益減、休業手当等は大きく変わります。補償期間を検討するときは、次の工程を具体化します。
- 移転前の準備:在庫整理、顧客告知、機械停止、原材料の調整
- 建物・設備の移転:建築工事、機械の解体・搬出・据付け、試運転
- 法令上の手続:営業許可、消防、保健所、警察、各種届出・検査
- 営業再開の準備:商品の仕入れ、従業員研修、清掃、広告、予約再開
営業者の都合だけで工事や準備を遅らせた期間がそのまま補償されるわけではありません。一方、特殊機械の再調整、衛生管理、認証・許可の再取得など、業種固有の工程が必要であれば、標準的な期間だけで足りないことを資料で示す必要があります。
仮営業所補償・営業規模縮小補償の計算で注意する点
仮営業所では二重移転と仮営業中の差額を確認する
仮営業所方式では、仮店舗等の賃借又は設置費だけでなく、従前地から仮営業所への移転、仮営業所から本移転先への再移転、仮営業中の売上減少、家賃・運搬費等の増加、仮店舗であることによる顧客喪失などを確認します。
仮営業所の規模や設備は、従前と全く同じである必要はありませんが、営業を合理的に継続できる内容でなければなりません。仮営業所候補の賃料、面積、設備、用途制限、営業許可、搬入経路等を調査し、営業休止方式との比較を行います。
営業規模縮小では面積だけでなく機能の低下を示す
店舗面積が20%減るから補償も一律20%という計算にはなりません。取得される部分に、入口、厨房、製造ライン、荷さばき場、駐車場、保管庫など重要な機能が集中している場合、営業への影響は面積割合より大きくなることがあります。
縮小後のレイアウト、従業員数、設備稼働率、生産能力、客席回転、駐車台数、物流動線を図面や数値で比較し、固定資産の売却損、余剰人員、設備の遊休化、経営効率の低下を具体化します。
営業補償の調査で必要になる資料
営業補償の算定は、営業者への聞き取りだけでなく、客観的な資料に基づいて行われます。提出を求められる資料は事業者や案件によって異なりますが、一般には次の資料を早めに整理します。
| 資料の区分 | 主な資料 | 確認する目的 |
|---|---|---|
| 営業主体・権利関係 | 登記事項証明書、定款、賃貸借・転貸借契約書、フランチャイズ契約書、営業許可証、各種届出 | 誰がどの場所で何の営業をしているか、移転後も許可を得られるか |
| 税務・決算 | 法人税又は所得税の申告書、決算書、青色申告決算書・収支内訳書、勘定科目内訳書 | 売上、収益・所得、経費、資産、借入等の基礎数値 |
| 会計帳簿 | 総勘定元帳、月次試算表、売上帳、仕入帳、現金出納帳、店舗別・部門別損益、POSデータ | 複数年・月別の変動、対象店舗の実績、固定費と変動費の分解 |
| 従業員 | 従業員名簿、雇用契約書、直近の賃金台帳、出勤簿、社会保険資料、職種・配置表 | 休業手当、別店舗勤務の可否、解雇・配置転換の必要性 |
| 資産・設備 | 固定資産台帳、減価償却明細、機械設備一覧、リース契約、保守契約、写真、配置図 | 移設可能性、移転期間、固定費、売却損、遊休化 |
| 商品・仕掛品 | 棚卸表、仕入原価、保管条件、賞味期限・使用期限、受注残、製造工程表 | 運搬・保管に伴う減損、廃棄、工程停止の影響 |
| 顧客・商圏 | 顧客数、会員・予約・取引履歴、地域別売上、商圏資料、主要販売先・仕入先 | 得意先喪失、立地依存性、代替地での営業可能性 |
| 移転計画 | 代替地候補、見積書、レイアウト、建築・設備工程、許認可所要期間、広告・通知見積 | 休業期間、仮営業所の必要性、再開費用、営業継続可能性 |
直近1期だけでなく複数年・月別の推移を確認する
営業実績は季節、改装、災害、感染症、主要取引先の変動等によって大きく動くことがあります。直近1期だけが例外的に高い又は低い場合は、複数年の決算書、月次推移、変動理由を示す資料を用意し、平常的な営業実績を説明します。
対象店舗が法人全体の一部である場合は、法人全体の決算書だけでは店舗の収益性を判断できないことがあります。店舗別売上、部門別損益、共通経費の配賦基準、銀行入金、POS等によって対象営業所の実績を区分できるようにします。
帳簿が不十分な場合は代替資料を集める
帳簿や申告書が不十分であるほど、主張する売上・経費・所得の認定は難しくなります。請求書、領収書、通帳、POS、仕入記録、予約台帳、取引先資料等で補完できる場合はありますが、申告内容と大きく異なる主張には信用性や税務上の問題も生じます。
決算書、契約書、許認可、顧客資料等は、提出した資料と算定結果を後で照合できるよう、提出日・資料名・対象期間を記録し、写し又はデータを手元に残しておきましょう。
営業調査から補償額提示までの流れ
道路事業などの用地取得では、一般に、事業説明、測量・物件調査、営業調査、補償算定、補償説明、契約、移転・支払という順に進みます。道路事業全体の進み方は、都市計画道路・道路拡張の立ち退きと補償の流れで解説しています。
- 対象範囲と権利者を確認する:取得範囲、営業場所、建物・設備・賃借関係を整理します。
- 営業実態を調査する:業種、営業年数、営業時間、従業員、許認可、仕入先・顧客等を確認します。
- 決算書・帳簿等を提出する:売上、収益・所得、経費、資産、賃金等の基礎資料を提出します。
- 移転方法と工程を検討する:本移転、仮営業所、休止期間、設備移設、許認可等を具体化します。
- 営業補償の類型と各費目を算定する:休止、仮営業所、縮小、廃止のどれに当たるかを判断し、費目別に計算します。
- 補償内訳の説明を受ける:採用年度、認定額、補償期間、費用分解、控除内容を確認します。
- 契約条件と移転可能性を確認する:支払時期、明渡期限、追加調査、条件変更時の扱いを確認して契約します。
営業調査時に伝えなかった設備、従業員、許認可、特殊工程等は、算定から漏れるおそれがあります。調査票へ署名する前に、現場責任者、経理担当者、設備担当者等にも確認してください。
営業補償の提示額が低いと感じたときの確認ポイント
営業補償の見直しを求めるときは、「相場より低い」「営業への影響が大きい」という抽象的な主張だけではなく、算定前提のどこが実態と異なるかを特定します。
- 類型の誤り:休止ではなく仮営業所・規模縮小・廃止を検討すべき事情がないか
- 補償期間の不足:機械の移設、試運転、許認可、在庫整理、開店準備が工程に反映されているか
- 認定収益・所得の誤り:例外的な年度だけを採用していないか、対象店舗の実績を区分しているか
- 固定費・変動費の分類:休業中も支払う経費が変動費として除外されていないか
- 従業員費の漏れ:対象者、平均賃金、補償率、休業期間が実態に合うか
- 得意先喪失の過小評価:商圏、固定客、移転距離、営業年数、予約・会員データを反映しているか
- 商品・設備・広告費の漏れ:減損、再包装、二重移転、看板・車両・ウェブ表示変更等を確認したか
まず、営業補償金算定書、固定的経費内訳、認定収益額、得意先喪失の計算、移転工程など、説明可能な範囲で内訳と根拠を求めます。そのうえで、追加資料、専門業者の見積り、店舗別損益、工程表、反対試算等を提出します。
任意交渉、収用委員会、補償増額請求訴訟までの選択肢や専門家の役割は、土地収用・用地買収の補償額を増額できるかで詳しく解説しています。収用委員会の手続に進んだ場合は、意見書・審理・権利取得裁決・明渡裁決の流れも確認してください。
任意の補償契約が成立した後に、営業類型や算定資料を見直して追加補償を求めることは容易ではありません。総額だけでなく、内訳、支払条件、移転期限、清算条項を確認してから署名してください。
営業補償に関する裁判例から分かる注意点
大分地裁平成22年3月25日判決は、都市計画道路事業に伴って移転したコンビニエンスストアの営業者が、営業休止補償等の契約後に追加の補償を求めた事案です。
裁判所は、地方公共団体との任意の補償契約は私法上の契約であり、公序良俗違反、意思表示の瑕疵、優越的地位の濫用等の特段の事情がない限り、憲法29条3項を直接の根拠として追加請求することはできないと判断しました。また、移転先の確保が容易でない事情はあっても、営業の継続が通常不能とはいえないとして、営業廃止補償ではなく営業休止補償としたことに違法はないとしました。
この裁判例からは、契約前に営業廃止・休止の類型、代替地の有無、移転可能性、補償期間、算定内訳を検討し、客観的資料を提出することの重要性が分かります。単に「移転したくない」「廃業を決めた」という事情だけでは、営業廃止補償の根拠として十分とは限りません。
営業補償を弁護士に相談するタイミング
営業補償は、法的な補償範囲だけでなく、会計、建築・設備、工程、許認可、不動産、顧客・商圏等が複合する分野です。次のような場合は、補償契約前の相談を検討してください。
- 営業休止、仮営業所、規模縮小、営業廃止の類型に争いがある
- 補償期間が実際の設備移転・許認可期間より短い
- 法人全体の赤字を理由に対象店舗の利益が認められていない
- 固定費、従業員費、顧客喪失、在庫減損等に大きな漏れがある
- 補償契約書の清算条項や移転期限に不安がある
- 収用委員会への意見書や補償増額請求訴訟を検討している
弁護士は、補償項目と契約条件を法的に整理し、必要に応じて税理士・公認会計士、補償コンサルタント、建築士、設備業者、不動産鑑定士等と連携して、資料の整理、反対試算、交渉、意見書、訴訟対応を行います。
公共事業の営業補償についてよくある質問
営業補償の相場は売上や家賃の何か月分ですか?
公共事業の営業補償に一律の相場はありません。売上高又は家賃の一定倍ではなく、営業類型、補償期間、固定的経費、認定収益・所得、従業員、顧客喪失、在庫・広告費等を項目別に算定します。
赤字の事業でも営業補償を受けられますか?
法人全体又は対象営業所が赤字であっても、直ちに営業補償全体がゼロになるとは限りません。休業中も支出する固定的経費、従業員の休業手当、商品等の減損、移転広告費などは別に検討します。ただし、収益減又は所得減は、認定できる収益・所得の有無によって結果が変わります。
確定申告より実際の売上が多いと主張できますか?
営業補償では申告書・決算書・帳簿等の客観的資料が重視されます。申告内容と異なる売上を主張する場合、通帳、POS、請求書等で裏付けられても、信用性や税務上の問題が生じます。早めに税理士・弁護士へ相談し、事実と資料を整理してください。
希望すれば仮営業所を用意してもらえますか?
希望だけで当然に仮営業所補償となるわけではありません。営業継続の必要性、適切な仮営業所の確保可能性、営業休止方式との費用比較、工事の緊急性等を踏まえて、必要かつ相当かを判断します。
テナントでも営業補償を受けられますか?
賃借店舗で実際に営業し、公共事業によって通常の営業上の損失を受ける場合は、営業補償の対象となり得ます。借家人補償、動産移転料、機械設備の移転補償等と費目を分けて確認します。
補償契約後に売上や工事費が変わったら追加請求できますか?
補償契約の内容、清算条項、契約後に判明した事情、行政側の説明等によりますが、契約後の追加請求は容易ではありません。予測できる工程、設備、許認可、在庫、営業損失は契約前に調査し、未確定事項の扱いを契約書で確認することが重要です。
営業補償の協議がまとまらない場合はどうなりますか?
任意の用地買収で合意できず、事業認定等を経て収用手続に進む場合は、収用委員会が補償額等について裁決します。裁決後に補償額を争う訴訟には出訴期間があるため、裁決書や送達日を放置しないでください。
まとめ|営業補償は類型・補償期間・会計資料を項目別に確認する
公共事業・用地買収の営業補償は、営業休止、仮営業所、営業規模縮小、営業廃止のどの類型に当たるかを判断し、営業者が通常受ける損失を項目別に積み上げて算定します。
- 営業補償に一律の相場はなく、類型と費目別の算定が基本です
- 営業休止では、固定費、収益・所得減、従業員、顧客喪失、商品・広告費等を確認します
- 休業期間は、建物・設備・許認可・開店準備を含む客観的な工程から判断します
- 決算書だけでなく、月次帳簿、賃金、設備、在庫、顧客、移転計画の資料が重要です
- 提示額に疑問があるときは、契約前に内訳と算定前提を確認し、反対資料を提出します
用地担当者から営業調査や補償額の説明を受けたら、資料の対象年度、営業類型、補償期間、各費目の認定額を一覧化してください。設備移転や許認可に時間を要する事業、複数店舗を運営する法人、特殊な立地に依存する営業では、早い段階の検討が特に重要です。
坂尾陽弁護士
関連記事
土地収用・用地買収の制度全体、営業廃止の要件、補償額の見直しや収用委員会の手続は、次の記事で詳しく確認できます。
