立退き訴訟(明渡し訴訟)になったら?借主の対応・流れ・費用・立退料

裁判所から「訴状」「口頭弁論期日呼出状」「答弁書催告状」などが届くと、すぐに立ち退かなければならないのではないかと不安になる方は少なくありません。

立ち退き訴訟(建物明渡し訴訟)を起こされたからといって、その時点で退去が確定したわけではありません。ただし、答弁書や期日を放置すると、貸主の主張に基づいて審理が進み、不利な判決を受けるおそれがあります。

まず確認すべきなのは、貸主が家賃滞納などの契約違反を理由に解除を主張しているのか、建て替え・自己使用など貸主都合の正当事由を主張しているのかという点です。この記事では、主に建物の借主側を対象に、訴状が届いた直後の対応、裁判の流れ、正当事由と立退料、和解、費用、判決後の強制執行までを解説します。

  • 裁判所名・事件番号・答弁書の期限・第1回期日を最初に確認する
  • 契約違反型と正当事由型では、争点も立退料の扱いも異なる
  • 正当事由型では、貸主・借主双方の必要性や建物の現況などが総合判断される
  • 和解では立退料だけでなく、明渡日・支払時期・敷金・原状回復も一体で決める
  • 判決や和解調書に基づく強制執行へ進む前に、主張と証拠を早期に整理する

坂尾陽弁護士

裁判所から届いた封筒は、交渉書面とは重みが違います。驚いて相手へ連絡する前に、期限と請求内容を確認し、届いた書類一式をそのまま保管してください。
(執筆者)弁護士 坂尾陽(Akira Sakao -attorney at law-)

2009年      京都大学法学部卒業
2011年      京都大学法科大学院修了
2011年      司法試験合格
2012年~2016年 森・濱田松本法律事務所所属
2016年~     アイシア法律事務所開業

 

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立退き訴訟(明渡し訴訟)とは

立退き訴訟とは、貸主などが原告となり、借主や現実の占有者を被告として、建物の明渡しを求める民事訴訟です。事件名は「建物明渡請求事件」「建物明渡等請求事件」などと表示されることがあります。

訴状では、建物の明渡しだけでなく、未払賃料、契約終了後の賃料相当損害金、違約金、原状回復費用などが併せて請求されることもあります。最初に「請求の趣旨」を読み、何を命じる判決が求められているのかを確認する必要があります。

立ち退き通知と裁判所からの訴状は別物

貸主や管理会社から届く立ち退き通知、内容証明、弁護士名の通知書は、通常は相手方の主張を伝える書面です。これに対し、裁判所から特別送達で届く訴状や期日呼出状は、すでに民事訴訟が始まったことを示します。

通知書への回答が遅れていたとしても、裁判所の提出期限や期日は別に管理します。相手方との話合いが続いているからといって、答弁書を出さなくてよいわけではありません。

訴えられただけで強制退去になるわけではない

貸主が訴訟を提起しただけで、貸主が鍵を交換したり、荷物を運び出したりできるわけではありません。明渡しを強制するには、原則として判決、裁判上の和解などの債務名義を得た上で、裁判所の強制執行手続を利用する必要があります。

もっとも、訴訟を放置して不利な判決が出たり、和解で定めた期限を過ぎたりすると、実際に強制執行へ進む可能性があります。「まだ判決ではないから何もしない」という対応も、「すぐ退去するしかない」と考える対応も適切ではありません。


立ち退き訴訟は大きく2つの型に分けて考える

借主側の初動で最も重要なのは、貸主がどの法律構成で賃貸借契約の終了を主張しているかを分けることです。代表的な違いは次のとおりです。

区分 主な理由 中心となる争点 立退料の扱い
契約違反型 家賃滞納、無断転貸、重大な用法違反など 解除原因の有無、催告、違反の程度、信頼関係が破壊されたか 通常、正当事由を補完する立退料は中心的な争点にならない
正当事由型 建て替え、老朽化、自己使用、再開発、有効活用など 更新拒絶・解約申入れの手続と正当事由の有無 財産上の給付の申出が正当事由を補完する要素となり得る

家賃滞納・無断転貸などの契約違反型

契約違反型では、貸主は債務不履行による解除などを主張します。借主は、滞納額や支払日、催告の有無、すでに支払った金額、違反とされる行為の内容、是正状況などを確認します。

家賃を一度遅れただけで常に解除が認められるわけではありませんが、滞納の期間・回数・金額、支払約束の不履行、訴訟までの経過などにより、賃貸借を続ける信頼関係が壊れたと判断されることがあります。滞納がある場合は、現在の未払額を曖昧にせず、通帳や振込明細と貸主の入金一覧を照合することが重要です。

建て替え・自己使用などの正当事由型

普通建物賃貸借で貸主が更新を拒絶したり、期間の定めのない契約を解約したりする場合は、借地借家法上の正当事由が問題になります。貸主の都合だけで決まるのではなく、借主が住居や店舗として使用を続ける必要性、賃貸借の経過、建物の利用状況・現況、立退料等の申出が総合的に考慮されます。

正当事由の判断要素は、借地借家法の正当事由とは?立退料で補完される仕組みを解説で詳しく説明しています。

定期借家・合意解約は別の確認が必要

契約書に「定期建物賃貸借」と書かれている場合でも、契約書とは別の説明書面や事前説明など、定期借家としての要件が問題になることがあります。一方、有効な定期建物賃貸借が期間満了で終了する場合は、普通借家の正当事由とは異なる枠組みで判断されます。

また、借主がすでに退去日を含む合意書へ署名している場合は、更新拒絶や解約申入れではなく、合意解約の成立・解釈・取消しなどが争点になることがあります。訴状だけでなく、契約書、覚書、更新書類、退去合意書を時系列で確認してください。


訴状・呼出状が届いたら最初に確認すること

裁判所から届いた書類は、順番を決めて確認すると対応漏れを防げます。

確認項目 見る場所 確認する内容
裁判所・事件番号 期日呼出状、訴状の表紙 問い合わせ先、事件の特定、地方裁判所か簡易裁判所か
第1回期日 期日呼出状 日時、場所、ウェブ参加の案内の有無
答弁書の期限 答弁書催告状、案内書 提出期限、提出先、相手方への送付方法
請求内容 訴状の「請求の趣旨」 明渡し、金銭、仮執行宣言など何を求められているか
請求の根拠 訴状の「請求の原因」 滞納解除、正当事由、定期借家、合意解約などのどれか
証拠 証拠説明書、甲号証 契約書・通知・入金表・建物資料のどこに反論が必要か

答弁書を期限内に提出する

答弁書は、原告の請求に対する被告の立場と、訴状に記載された事実を認めるか争うかを示す書面です。詳細な反論をすべて初回に完成できない場合でも、期限を無視せず、裁判所から届いた案内に従って対応します。

裁判所は、民事訴訟で使う答弁書の書式・記載例を公開しています。ただし、実際の提出期限、提出部数、オンライン提出の可否は、届いた書類と担当部の案内を優先してください。

2026年5月21日以降の民事訴訟手続

2026年5月21日に民事訴訟手続の全面的なデジタル化が施行され、本人もmintsによるオンライン提出等を利用できるようになりました。訴えの提起日が同日より前か後かで書式が異なる場合があるため、裁判所の最新書式と事件ごとの案内を確認してください。弁護士等の訴訟代理人にはオンライン手続が義務付けられています。

第1回期日に出席できない場合も放置しない

第1回期日に仕事、入院、遠方などの事情で出席できない場合は、自己判断で欠席するのではなく、早めに裁判所へ連絡し、答弁書の提出や期日の扱いを確認します。答弁書等で請求を争う意思を明らかにせず欠席すると、不利な内容の判決が言い渡される可能性があります。

相手方の弁護士と延期や和解交渉の話をしていても、裁判所が期日を変更したことにはなりません。裁判所から正式な連絡がない限り、指定された期日は残っているものとして対応します。

届いた封筒・書類・メールをまとめて保存する

  • 裁判所の封筒:送達日や同封書類を確認できるよう保管する
  • 訴状・証拠一式:ページや甲号証の順番を崩さず保存する
  • 賃貸借関係書類:当初契約、更新契約、覚書、重要事項説明書を揃える
  • 支払資料:通帳、振込明細、領収書、家賃台帳を月別に並べる
  • 交渉記録:通知書、内容証明、メール、チャット、面談メモを時系列にする

原本へ直接書き込まず、検討用はコピーやPDFにします。後から作った文書を当時の記録のように扱ったり、データを加工したりしてはいけません。


立ち退き訴訟の一般的な流れ

建物明渡し訴訟は、事件の内容により進み方が変わりますが、おおむね次の順序で進みます。

段階 裁判手続 借主側の主な対応
1 訴状・期日呼出状の送達 期限、請求内容、証拠を確認する
2 答弁書の提出・第1回口頭弁論 請求を争うか、どの事実を認めるかを明らかにする
3 準備書面・証拠の提出 契約終了、正当事由、立退料、損害等について主張立証する
4 争点・証拠の整理 裁判所が判断すべき争点と必要証拠を絞る
5 和解協議 金額、明渡日、支払条件、敷金・原状回復等を協議する
6 証人尋問・当事者尋問等 必要な場合に人証や鑑定等を取り調べる
7 判決 請求棄却、明渡命令、立退料との引換給付などの判断が示される
8 控訴・任意履行・強制執行 判決への不服申立て又は明渡し・執行への対応をする

裁判所の民事訴訟の案内でも、口頭弁論、争点・証拠整理、証拠調べ、判決・和解、不服申立ての概要が説明されています。

裁判中でも和解できる

立ち退き訴訟は、判決まで進まず、裁判上の和解で終了することがあります。正当事由の強さや立退料の見通しだけでなく、移転に必要な期間、事業への影響、訴訟継続の負担を踏まえ、裁判所から和解案が示されることもあります。

和解する場合は、立退料の金額だけを決めて終わりにせず、支払日、明渡日、賃料・使用損害金、敷金、原状回復、造作・残置物、違約時の扱いまで明確にします。交渉の進め方は、立退料の交渉・増額(資料・期限・弁護士)も参考にしてください。

判決では明渡しと立退料の引換えが命じられることがある

正当事由型で貸主が立退料の提供を申し出ている場合、裁判所が、一定額の支払を受けるのと引換えに建物を明け渡すよう命じることがあります。他方、正当事由が足りない、又は申出額が正当事由を補完するには不足すると判断されれば、貸主の明渡請求が棄却されることもあります。

判決に不服がある場合、第一審判決の送達を受けた日から2週間以内に控訴する必要があります。判決に仮執行宣言が付いていると、控訴しただけでは執行を止められない場合があるため、判決を受け取った時点で速やかに対応を検討します。

判決・和解後に強制執行へ進む場合

明渡しを命じる判決が確定した場合や、明渡期限を定めた和解調書がある場合に、借主が任意に明け渡さなければ、貸主が不動産明渡しの強制執行を申し立てることがあります。

執行官による明渡しの催告では、原則として催告日から1か月を経過する日が引渡期限とされ、別に断行実施予定日が定められます。手続の概要は、裁判所の不動産引渡(明渡)執行の案内で確認できます。

強制執行の通知を放置しない

明渡しの催告や断行実施予定日の通知が届いた段階では、荷物、鍵、移転先、事業設備などの調整時間が限られます。和解や任意明渡しの余地が残るかを含め、直ちに弁護士へ相談してください。


占有移転禁止仮処分が届いた場合

建物明渡し訴訟の前後に、貸主が「占有移転禁止仮処分」を申し立てることがあります。これは、訴訟中に建物の占有者が第三者へ入れ替わり、勝訴判決を得ても執行できなくなる事態を防ぐための保全手続です。

占有移転禁止仮処分では、執行官が建物を保管する形式を取りつつ、通常は現在の占有者に使用が許され、占有の移転や占有名義の変更が禁止されます。仮処分の執行を受けたことが、直ちに本案訴訟での敗訴や即日退去を意味するわけではありません。

ただし、第三者へ又貸しする、名義だけ変更する、現実の占有者を入れ替えるといった行為は重大な問題になります。公示書を剥がしたり、状況を変えたりせず、決定書の「申立ての趣旨」「主文」と執行調書を確認してください。仮処分の内容によっては明渡しそのものに関わる緊急性の高い命令もあり得るため、「仮処分」という名称だけで判断しないことが大切です。


正当事由型の立ち退き訴訟で争われるポイント

貸主都合の正当事由型では、単に「建て替えたい」「立退料を払う」と主張すれば足りるわけではありません。主な判断材料を、借主側の証拠と対応させて整理します。

判断要素 貸主側で問題になる事情 借主側で整理する事情
建物使用の必要性 自己使用、家族使用、建て替え、再開発等の具体性・切迫性 居住の継続、家族・通院・通学、店舗・顧客・従業員との結び付き
賃貸借の従前の経過 契約締結の経緯、更新、条件変更、退去協議の経過 長期継続、賃料支払、貸主の従前説明、投資や改装への承諾
建物の利用状況 空室状況、他の入居者の退去、建替計画の進行 実際の居住・営業状況、代替物件の有無、移転困難性
建物の現況 老朽化、耐震性、修繕費、行政上の要請 診断資料の内容、補修可能性、危険性の程度、計画の実現可能性
財産上の給付 立退料の金額、支払方法、増額の申出 移転費、賃料差額、営業損失、造作・設備、借家権等の資料

立退料だけで正当事由が生まれるわけではない

最高裁昭和46年6月17日判決は、立退料の提供は正当事由を判断する際に考慮されるものの、それだけで正当事由の根拠になるのではなく、他の事情と総合考慮され、相互に補完し合うものと示しました。

したがって、借主側は「金額が低い」と主張するだけでなく、貸主の建替計画や自己使用の必要性がどの程度具体的か、借主がその場所を使い続ける必要性がどの程度高いかも主張する必要があります。

訴訟中に立退料の申出・増額がされることがある

最高裁平成3年3月22日判決は、貸主が解約申入れ後に立退料の提供を申し出たり、当初の申出額を増額したりした場合でも、その提供・増額を正当事由の判断で考慮できるとしました。

そのため、訴状に書かれた金額が最終条件とは限りません。争点整理や和解協議を通じて、貸主が金額を増額したり、「裁判所が相当と認める額」を支払う旨を申し出たりすることがあります。借主側も、移転損失を裏付ける資料を早期に提出できるよう準備します。

申出額の上限が不足して請求が棄却された裁判例

東京地裁令和4年10月14日判決では、耐震性能に問題があるビルの建て替えの必要性と、約40年間営業してきた店舗の使用継続の必要性が検討されました。裁判所は、正当事由を補完する立退料は900万円を下回らないと判断した一方、貸主の申出上限が300万円であったことから、十分な財産的給付の申出がないとして明渡請求を棄却しました。

この裁判例は、裁判所が常に900万円を認めるという意味ではありません。建物の危険性、営業実態、賃貸期間、鑑定内容、貸主の申出方法など、その事案固有の事情に基づく判断です。

裁判例の金額は相場表ではありません

立退料は、家賃の何か月分という一つの式だけで決まりません。裁判例を使うときは、金額だけでなく、貸主・借主の必要性、建物の状態、営業利益、代替物件、提示額の範囲を比較する必要があります。


借主が準備する主張と証拠

立ち退き訴訟では、「困る」「納得できない」という気持ちだけでは十分ではありません。どの法律上の争点について、どの資料で事実を示すのかを整理します。

共通して準備する資料

  • 契約関係:賃貸借契約書、更新契約書、覚書、保証金・敷金の資料
  • 通知関係:更新拒絶、解約申入れ、催告、内容証明、受領日が分かる封筒
  • 支払関係:家賃・共益費・更新料等の通帳、振込明細、領収書
  • 使用状況:住民票、公共料金、営業許可、写真、顧客・従業員・通院通学資料
  • 交渉経過:メール、チャット、録音、面談記録、提示された合意書案

契約違反型で確認する資料

家賃滞納が争点なら、貸主の入金一覧をそのまま前提にせず、月ごとの約定額、支払日、充当先、敷金からの控除の有無を確認します。無断転貸や用法違反が主張されている場合は、実際の使用者、契約関係、貸主の承諾・黙認、是正要求と対応経過を整理します。

違反がある場合でも、事実と異なる部分まで認める必要はありません。一方、明らかな滞納や違反を全面否認すると信用を損なうおそれがあるため、認める事実、争う事実、すでに是正した事実を分けます。

住居の正当事由型で準備する資料

  • 家族構成、年齢、病気・障害、介護、通院、通学、勤務先との関係
  • 同じ地域で代替物件を探した結果と、家賃・初期費用・審査条件
  • 引越費用、敷金・礼金・仲介手数料、家賃差額の見積り
  • 長期間居住してきた経過と、近隣・福祉・生活基盤との結び付き

店舗・事務所の正当事由型で準備する資料

  • 確定申告書、決算書、売上台帳など営業実態を示す資料
  • 内装・造作・設備の取得資料、工事契約、減価償却資料、写真
  • 移転先候補の賃料、保証金、内装費、設備移設費、原状回復費の見積り
  • 休業期間、従業員対応、顧客離れ、移転告知に関する具体的資料
  • 立地依存性、商圏、許認可、代替物件で営業を再開できる時期

見積りは一社だけでなく、必要に応じて複数取得し、対象工事・数量・単価を確認します。営業損失を主張する場合は、売上だけでなく利益、固定費、移転後に回復する部分も区別します。


立ち退き訴訟における立退料の扱い

訴えられれば立退料請求権が自動的に発生するわけではない

立退料は、貸主都合の更新拒絶・解約申入れにおいて、正当事由を補完する財産上の給付として問題になるものです。訴訟を起こされたという事実だけから、借主に一定額の独立した請求権が当然に発生するわけではありません。

契約違反型で解除が有効と判断される場合は、正当事由を補完する立退料は通常中心的な争点になりません。反対に、正当事由型では、貸主の申出額が十分か、借主の移転上の不利益をどの程度軽減できるかが争点になります。

立退料は一律の家賃倍率では決まらない

立退料の検討では、引越費用、新規契約の初期費用、賃料差額、内装・設備移転費、休業損失、借家権価格などが問題になります。ただし、どの費目をどこまで考慮するかは、正当事由の強さや物件の用途により変わります。

借主側は、希望額だけを提示するのではなく、費目、金額、計算期間、証拠資料を対応させることが重要です。立退料の資料作成と交渉方法は、立退料の交渉・増額(資料・期限・弁護士)で確認できます。

支払時期と明渡しをセットで決める

和解では、立退料をいつ受け取れるかが重要です。「明渡し後に支払う」だけでは、借主が移転資金を先に用意できず、明渡し後の回収リスクも残ります。全額又は一部の先払い、明渡しとの同時履行、鍵の引渡しと入金確認の順序などを具体的に定めます。

退去条件をまとめるときは、立退料の合意書(退去合意書)で押さえる条項も参照してください。

敷金・原状回復・未払賃料は別項目として精算する

立退料、敷金返還、未払賃料、原状回復費用は法的な役割が異なります。「立退料〇〇万円、敷金込み」と一括表示されている場合は、各項目の金額と控除根拠を分けて確認します。

建物を取り壊す予定であっても、原状回復義務が当然に消えるとは限りません。反対に、取り壊すのに全面的な原状回復を求める合理性が乏しい場合は、和解条件として免除・範囲限定を交渉する余地があります。詳しくは、立退料と敷金・原状回復の注意点を確認してください。

裁判になれば必ず立退料が高くなるわけではありません

訴訟では、正当事由が認められて明渡しを命じられる可能性も、貸主の請求が棄却される可能性もあります。訴訟の長期化や証拠不足が借主に有利に働くとは限らないため、判決見通しと和解条件を比較して判断します。


立ち退き訴訟にかかる費用

借主側で想定される費用は、裁判所へ納める訴訟費用だけではありません。弁護士費用、鑑定・見積り、交通・休業、移転準備などを分けて考えます。

費用項目 内容 確認ポイント
裁判所の手数料等 反訴、控訴、各種申立て等をする場合の申立手数料など 単に答弁する場合と、自ら申立てをする場合を区別する
訴訟費用 申立手数料、郵便費用相当額、証人の旅費日当など法律上の費用 判決では敗訴者負担が原則だが、全部又は一部の負担が定められる
弁護士費用 相談料、着手金、報酬金、日当、実費など 報酬の基準となる経済的利益と、和解・判決・期限延長の扱いを確認する
専門家・資料費 不動産鑑定、構造資料、税理士・会計資料、見積取得など 本当に必要な資料か、訴訟上の効果と費用を比較する
移転準備費 引越し、代替物件、内装、休業、保管等 立退料の根拠資料にもなるため、見積りと領収書を保存する

裁判所がいう「訴訟費用」には、通常、弁護士費用は含まれません。費用負担の一般的な説明は、裁判所の訴訟費用についてで確認できます。

弁護士費用は事務所と事件内容により異なる

立ち退き訴訟の弁護士費用は、居住用か事業用か、請求額、滞納の有無、証拠量、鑑定の必要性、期日の回数などで変わります。着手金と報酬金のほか、実費、日当、鑑定費用が別に必要かを確認します。

また、借主側の「経済的利益」を、立退料の増額分、貸主請求額の減額分、明渡し猶予により得られる利益のどれで計算するかは、委任契約により異なります。詳しくは、立退料請求の弁護士費用|着手金・成功報酬の考え方を参照してください。

本人訴訟も可能だが、争点の見極めが重要

民事訴訟は、必ず弁護士へ依頼しなければならない手続ではありません。しかし、正当事由と立退料の関係、契約解除の有効性、証拠の提出時期、和解条項、仮執行や強制執行まで関わるため、書式を埋めるだけでは対応しにくい事件があります。

少なくとも、訴状の請求内容と防御方針、提出すべき証拠、和解の下限・期限を決める段階では、弁護士へ相談して見通しを確認することが有用です。

早めの相談が必要なケース

  • 答弁書の期限又は第1回期日まで時間がない
  • 店舗・事務所で、移転費や営業損失が大きい
  • 家賃滞納と貸主都合の立ち退きが同時に主張されている
  • 定期借家、合意解約、転貸、占有者の違いなど複数の争点がある
  • 占有移転禁止仮処分、仮執行宣言、強制執行の書類が届いた
  • 貸主から短期間での退去を条件とする和解案が提示された

裁判上の和解案で確認するチェックリスト

裁判上の和解が成立すると、和解調書には確定判決と同様に強制執行の基礎となる効力があります。口頭の理解ではなく、調書に記載される文言を確認します。

  • 立退料:総額、内訳、振込先、振込手数料、支払期限
  • 支払と明渡し:先払い・同時履行・分割払い、鍵の引渡し手順
  • 明渡日:年月日と時刻、延長条件、早期明渡しの場合の扱い
  • 明渡日までの金銭:賃料、共益費、使用損害金、光熱費の精算
  • 敷金・保証金:返還額、控除項目、返還時期、償却条項
  • 原状回復・造作:撤去範囲、免除範囲、残置物、買取り・放棄
  • 不履行時:違約金、強制執行、期限の利益喪失、追加猶予の有無
  • 清算条項:何の請求を残し、何を相互に放棄するか、訴訟費用の負担

和解期日に裁判官から案が示されても、その場で直ちに応じなければならないとは限りません。移転業者、金融機関、従業員、家族との調整が必要な事項は、回答前に確認します。ただし、検討期間がいつまで認められるかは裁判所の進行によるため、無期限に保留できるわけではありません。


立ち退き訴訟に関するよくある質問

訴状が届いたら、すぐに建物を明け渡す必要がありますか?

訴状が届いた段階では、まだ明渡しを命じる判決は出ていません。ただし、契約終了の理由に争いがない場合や、長期滞納など不利な事情がある場合もあります。期限内に答弁し、判決見通しと任意退去・和解の選択肢を検討してください。

立退き訴訟中も家賃を払う必要がありますか?

賃貸借契約が続いていると主張する場合は、少なくとも約定賃料の支払を継続し、新たな滞納を作らないことが重要です。貸主が受領を拒否する場合や、契約終了後の金銭の名目が争われている場合は、供託を含む対応を弁護士へ確認してください。

家賃滞納があっても立退料をもらえますか?

家賃滞納を理由とする解除が有効であれば、貸主都合の正当事由を補完する立退料は通常問題になりません。ただし、滞納額、支払経過、解除通知、貸主が別の理由も主張しているかによって整理が変わるため、訴状の法律構成を確認する必要があります。

裁判になった後でも立退料を交渉できますか?

できます。正当事由型では、訴訟中に貸主が立退料を増額し、借主が移転費等の資料を提出した上で、裁判上の和解をすることがあります。金額だけでなく、支払時期と明渡期限を同時に交渉します。

立ち退き訴訟はどのくらいの期間がかかりますか?

争点が少なく早期に和解できる事件もあれば、正当事由、建物の安全性、鑑定、営業損失、証人尋問、控訴などにより長期化する事件もあります。一律の期間はありません。移転準備は判決を待ってゼロから始めるのではなく、権利を放棄しない範囲で代替物件や費用を調査しておくことが現実的です。

貸主が勝訴したら、必ず強制執行まで待てますか?

強制執行まで居続けることを前提にするのは危険です。判決、仮執行宣言、控訴の有無、明渡期限、執行費用、残置物の扱いなどにより不利益が拡大することがあります。判決後は、任意明渡しの条件や執行停止の要否を速やかに検討してください。


まとめ|訴状が届いたら期限・訴訟類型・証拠を先に確認する

立ち退き訴訟は、契約違反型か正当事由型かによって、借主側の対応が大きく変わります。訴状を受け取った時点で退去が確定するわけではありませんが、答弁書や期日を放置すると取り返しにくい不利益が生じます。

  • 訴状・呼出状から答弁期限、第1回期日、請求内容を確認する
  • 契約違反型か、貸主都合の正当事由型かを分ける
  • 正当事由型では、使用継続の必要性と移転損失を証拠で示す
  • 和解では立退料、支払時期、明渡日、敷金・原状回復を一体で決める
  • 判決・仮処分・強制執行の書類が届いたら早期に専門家へ相談する

とくに、店舗・事務所で移転損失が大きい場合、家賃滞納と貸主都合の主張が混在している場合、短い期限の和解案が出ている場合は、初回期日前から主張と資料を整理することが重要です。

坂尾陽弁護士

訴訟対応では、最初の期限管理と証拠整理がその後の交渉力を左右します。届いた書類を一式揃え、何を争い、どの条件なら和解できるかを早めに言語化しましょう。

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