建物を借りて店舗、テナントや飲食店を経営しているときに建物老朽化やオーナーチェンジを理由に大家から立ち退きを迫られることがあります。このような場合は営業補償や移転費用のために、立ち退き料を請求することができます。
立ち退き料はどの程度が妥当な金額なのか、また、高額な家賃の物件と低額な家賃の物件とで、立ち退き料がどう変わるのか等が気になるかもしれません。この記事では、立ち退き料を請求する場合の立ち退き料相場や請求のコツを解説します。
1. 立ち退き料とは
1.-(1) 様々な理由から支払われる立ち退き料
大家の都合によって賃借人が立ち退かなくてはいけなくなったとき、賃貸人が支払うお金を「立ち退き料」と呼びます。大家が立ち退き料を支払う意図はさまざまであり、個別事情によって変わります。
一般的には、立ち退きを求める正当事由を補完するためや、立ち退き交渉がこじれそうなとき、スムーズに決着するために立ち退き料を提示するケースも少なくありません。
1.-(2) 立ち退き料は必ず支払われる?
厳密には立ち退き料を請求する権利が法律で定められているものではないため、「立ち退きをするなら必ず大家さんから立ち退き料をもらえる」とは限りません。しかし、大家の一方的な都合で立ち退きを迫られたにもかかわらず、まったく補償がないまま立ち退きをしてしまえば、店舗は営業面で大打撃を受けるだけでなく、新店舗を見つけるまでにかかる費用も全額負担しなければなりません。
従って、実務上はほとんどの事案で立ち退き料を支払って貰うことができます。例外としては、定期賃貸借契約であるとか家賃を滞納しているために立ち退きを求められたようなケースです。
原則として立ち退き料を貰うことができますが、大家はあれこれ理屈をつけて立ち退き料を支払わないか、又は家賃半年~1年分程度の立ち退き料の提示しかしないことも少なくありません。これでは立ち退きによる損害が十分補償されません。適正な立ち退き料を支払ってもらうための交渉を行い、今後の経営につなげていきたいところです。
2. 立ち退き料の金額はどのように決まる?
立ち退き料の金額は大家が提示する金額をベースにして、様々な事情を主張して増額交渉を行う中で決まります。一般的に、大家の提示金額<自分で増額交渉した金額<<<弁護士が対応した金額になります。
2.-(1) 大家が提示する立ち退き料相場
実は立ち退き料は明確な相場が確定していないとも言えます。なぜなら大家の事情や賃借人の経営状況によって立ち退き料の金額は異なるからです。
もっとも大家側の提示金額はある程度の相場があります。多くの場合、立ち退きの勧告は1年前から6カ月前の間になされます。そして、家賃の半年分から1年分程度が立ち退き料として提示されます。
また、少し交渉をすれば、新たな物件の敷金・礼金や引越費用等も負担してくれることは少なくありません。
2.-(2) 立ち退き料は増額できる
しかし、多くの場合は大家から提示された立ち退き料には不満が残ります。そして、自分で交渉をすれば大家もある程度は増額に応じてくれます。しかし、話し合いで簡単に増額された不十分な立ち退き料で妥協してしまうと、満足できる新店舗を見つけるだけの金銭的余裕がなくなってしまいます。
大家の提示は著しく低額な立ち退き料
実は、ほとんどの事例では大家から提示される立ち退き料の金額は著しく低い金額なのです。例えば、家賃30万円の物件で大家側から200万円の立ち退き料が提示されたとき、少し交渉をすれば簡単に300万円~400万円程度まで増額できます。なぜなら、大家側の提示は元々は著しく低い金額だからです。大家としては交渉がこじれて、あなたが弁護士に依頼するよりは、多少の増額をして早急に立ち退いて欲しいと考えます。
2.-(3) 弁護士基準は5倍~20倍の立ち退き料
立ち退き料に相場はないと言われますが、私たちがご依頼を受ける事案では、大家側の提示金額の5倍~20倍程度が適正な立ち退き料相場と言えるケースが少なくありません。なぜなら、大家側が提示する立ち退き料は家賃6か月から半年分なのに対し、弁護士が交渉すれば立ち退き料は家賃数十か月から100か月程度になることも少なくないからです。
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3. 具体的な立ち退き料相場
立ち退き料は大家と賃借人の交渉で決められるものですが、実務的・理論的な立ち退き料の相場もあります。
3.-(1) 大家の提示金額の相場:家賃半年分から1年分
私たちは立ち退き料を請求する側のご相談を数多く取り扱っていますが、店舗・事務所・飲食店等の業種や経営状況を問わず、大家から提示される立ち退き料相場は家賃半年分から1年分程度です。
3.-(2)自分で増額交渉した場合の相場:家賃1年分から1年半分
大家から提示があった立ち退き料に納得できない場合は、立ち退き料の増額交渉をすることになります。自分で増額交渉した場合の立ち退き料相場は家賃1年分から1年半分程度となります。
もちろん増額交渉のテクニックや大家の事情にもよるため、上記立ち退き料相場を超えるような立ち退き料を得られることもあります。但し、増額交渉で簡単に上乗せできる立ち退き料相場としては、家賃1年分から1年半分程度、大家の提示金額から100万円~200万円程度でしょう。
3.-(3) 弁護士による立ち退き料の相場:家賃数十か月から100か月
これに対し、私たちが立ち退き料の増額交渉を受任する場合は立ち退き料は家賃数十か月から100か月程度が相場となるケースも少なくありません。弁護士が増額交渉をする場合は、移転費用・営業補償・差額家賃等を踏まえて適正な立ち退き料相場を判断するためと、裁判を想定して対応するため高額な立ち退き料の相場になるのです。
弁護士が対応する場合は、個別具体的な事情によって立ち退き料の相場を算定します。例えば、あなたが経営する店舗の経営状況が良ければ立ち退き料は高額になります。また、長年賃貸借契約を締結していたため周辺の家賃相場より低額な家賃で物件を借りている場合も立ち退き料は高額になります。
様々な事情があるため一概には言えませんが、弁護士による立ち退き料の相場としては一応以下の点が目安となります。
- 事務所 家賃50か月分
- 店舗 家賃40か月分
- 飲食店 家賃100か月分
弁護士に立ち退き料請求を依頼すれば、弁護士基準での増額交渉を行います。大家の提示金額から大幅に立ち退き料を増額できることも少なくありません。まずは立ち退き問題に詳しい弁護士に、あなたの事案の立ち退き料相場をご相談ください。
4. 立ち退き料相場が低額になるケース
立ち退き料相場を考えるために立ち退き料が増額されにくいケースも把握しておきましょう。
4.-(1) 立ち退き理由によるもの
立ち退き料相場は大家側の立ち退き理由によっても異なります。立ち退きを求める正当事由がある場合は立ち退き料相場は低額になりがちです。例えば、大家が自分で住むために立ち退きを求めた場合は大家が物件を自ら使用する必要性があるため立ち退き料は高額にはなりません。
また、建物の老朽化を理由に立ち退きを求められ場合は少なくありません。一般的に建物老朽化は口実であり、このことで立ち退き料相場が左右されることは少ないです。最も築年数が経過し、建物崩壊の危険があるような例外的ケースでは立ち退き料相場が低額になる可能性があります。
4.-(2) 賃借人側の事情によるもの
例えば、あなたが賃貸借契約違反をしている場合は立ち退き料相場は低額になります。もっとも、何か月も家賃を滞納している等の悪質なケースではなく、建物の用法違反や多少家賃の支払いが遅れる程度であれば、立ち退き料相場に大きな影響はないことも少なくありません。
また、物件で営業している事業の経営状況が悪化している場合は立ち退き料相場は低額になる可能性があります。もっとも税務対策で決算書上は赤字にしている企業も少なくないため、そのような事情がある場合は実態に応じた経営状況を主張立証する必要があります。
4.-(3) 大家から立ち退き料を提示されないこともある?
一方的に大家から立ち退きを勧告されたにもかかわらず、立ち退き料を提示されない可能性もゼロではありません。大家が「契約書に立ち退き料を請求しない旨の条項がある」「自由に立ち退きを要求できる権利が書かれている」などと主張してくると、思わず納得しそうになる人も多いでしょう。
しかし、借地借家法の適用がある場合は賃借人は非常に強い立場にあります。契約書にかかわらず、相場通りの立ち退き料を請求することができます。大家が提示する立ち退き料はほとんど根拠がないことが少なくありません。
立ち退き料相場通りの高額な提示があった場合はともかく、納得できる金額でなければ適正な立ち退き料相場を確認するべきです。
5. 立ち退き料を増額する5つのコツ
5.-(1) 立ち退く意思がないことを主張
内心では立ち退き料を貰えれば立ち退こうと思っている場合でも、立ち退き料相場を吊り上げるためには立ち退く意思がないことを強く主張することも交渉テクニックです。
もし大家に立ち退く意思があると思われると立ち退き料増額に応じて貰えません。他方で、あまり強く主張しすぎると、大家が本当に立ち退きを諦める場合もあるので注意が必要です。もし交渉の加減に自信がない場合は弁護士に交渉を任せた方が良いでしょう。
5.-(2) 立ち退きの正当事由がないことを主張
立ち退きを求められても、そもそも正当事由が全く認められなければ立ち退きをする必要がありません。例えば、建物を建て替えて有効活用したい、なんとなく気に食わない等の理由であれば立ち退きは認められません。
従って、大家が立ち退きを求める正当事由がない場合は強気で立ち退き料の交渉を行うことができます。大家が主張する正当事由は法律上は認められないものの場合もあるので、大家から正当事由が主張された場合は本当に認められるかは確認した方が良いでしょう。
5.-(3) 物件の重要性を主張
あなたがその物件で営業や事業を継続する必要性が高い場合は立ち退き料は増額される傾向にあります。大家も「建物が古くて壊さなければいけない」等と立ち退きが必要な理由を主張します。これに対し、あなたにとって物件が重要である理由を整理してから、立ち退き料の増額交渉に挑みましょう。
例えば、あなたが地域密着型の飲食店を経営している場合は、立ち退きによって営業に大きな影響が出ます。近隣住民のリピーターが多い飲食店であれば立地が変わってもすぐ同程度の売上を維持できるとは限りません。
また、立ち退きによって「資材調達」「従業員の交通費」などの条件が変わる店舗もあるでしょう。これらのマイナス面を店舗側は大家にぶつけて納得してもらうことが肝心です。
5.-(4) 立ち退きによる損害を積算して主張する
立ち退き相場を踏まえずに漠然と立ち退き料の増額を求めても有意義な交渉はできません。立ち退き相場を算定する場合は立ち退きによる損害を項目ごとに積算して主張します。例えば、移転費用はいくらぐらい、営業補償の部分はいくらぐらい、差額家賃はどのぐらいと項目別に主張しなければなりません。
また、大きな項目の中でも、どのような点が立ち退き料増額事由であり、それを裏付ける資料を整理して提出することが重要です。立ち退き料の算定項目とこれを裏付ける資料を整理することが、立ち退き料相場を増額させるポイントです。
5.-(5) 家賃が低額な場合の対応方法
立ち退き料相場は家賃の何か月分等とされることが少なくありません。それでは物件の家賃が低額な場合は立ち退き料相場は低額になるのでしょうか。
この点、坪面積が少ない、家賃相場が低い等の理由で物件の家賃が低い場合は立ち退き料も低額にならざるを得ません。しかし、長年物件を借りていて、安い家賃で物件を借りている場合(周辺の同等物件が値上がりしている場合)は、家賃が低額なことはむしろ立ち退き料相場の増額事由となります。
このような場合は、現行の家賃相場との差額を主張して、移転先で営業を継続する場合は家賃が増額して損失を被ること、また、立ち退き料相場の根拠となる家賃は周辺の同等物件の家賃が妥当であることを主張することが考えられます。
6. どうしても立ち退き料に不満が残る場合
相場通りの立ち退き料を貰える不満がある場合は妥協せずに交渉することは大切です。しかし、あまり交渉が長引くと賃貸借契約期間満了までに立ち退き料を貰えないリスクがあります。また、交渉を打ち切って裁判を起こされて立ち退き料を貰えない危険もあります。
立ち退き料の交渉をスムーズに行うためには弁護士に交渉を依頼することも考えられます。弁護士に依頼するメリットは「交渉力で相手を上回れる」点にあります。大家さんの主張から矛盾を見抜いたり、正当性の弱さを突いたりするには専門家の意見が大きな助けとなります。また、万が一、裁判にもつれこんでも弁護士が裁判対応を行います。
他方で、弁護士に依頼するデメリットは弁護士費用がかかることです。もし弁護士に依頼しても立ち退き料を増額できなければ、弁護士費用の分だけ損をします。もっとも、私たちは立ち退き料が増額した場合にのみ報酬金を頂戴するプランを用意しています。このような場合であれば、立ち退き料が増額して初めて弁護士の報酬金が生じるため安心です。
飲食店・テナント・事務所等の事業用物件の立ち退き料請求に関する法律相談は0円!完全無料です。弁護士直通の電話による無料相談も行っております。法律相談は24時間365日受付。まずは悩まずお気軽にお問合せください。
7. 立ち退き料相場を知った上で増額交渉を
立ち退き料は妥協せずに交渉することが重要です。大家が提示する立ち退き料相場は一般的に低いものであり、また立ち退き理由も根拠がないことが少なくありません。
適正な立ち退き料相場や、立ち退き料を増額させるポイントを踏まえた上で交渉をしましょう。また、弁護士に依頼すれば家賃数十か月から100か月程度が立ち退き料相場となることも少なくありません。十分な立ち退き料を得られないのであれば早めに弁護士に相談してみることも考えられます。
立ち退き料は営業補償や移転費用に充当するために必要なお金となります。立ち退き料の額は今後の経営に大きく影響するので、妥協せずに納得できるまで交渉しましょう。
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